種から絹へ・上州絹星を追う

3 「桑取り」朝食前の一仕事

赤城山を見渡せる畑で、早朝から桑取り作業に励む田中トクエさん
赤城山を見渡せる畑で、早朝から桑取り作業に励む田中トクエさん

養蚕農家の朝は早い。高崎市金古町の田中トクエさん(68)は二十八日、夜明けとともに目を覚ますと、自宅裏の桑畑で「桑取り」を始めた。太陽はまだ、赤城山の脇から顔を見せたばかり。オレンジ色の優しい光が、桑の束を担ぐトクエさんを真横から照らしていた。

トクエさんはかまで切り取った桑を七、八キロ分まとめて束にすると、頭の上に担ぎ上げて運び、軽トラックの荷台へ放り込んだ。「早起きはもう慣れてます。お蚕がおなかをすかせているから、頑張らないと」。にこやかに語りながら、一時間以上も休まず桑を取り続けた。

自宅蚕室の「上州絹星」の蚕は五齢を迎え、体長は四―五センチ。一仕事終えたトクエさんがやって来ても、じっと動かず眠ったままだ。

桑の葉を与えると徐々に目を覚まし、やがて「ザワザワ」と葉をかむ音が蚕室に響き始めた。「威勢良く食べてくれて、気持ちいいね」とトクエさんの表情も緩んだ。午前八時。すべての蚕に“朝食”が行き渡った後、ようやくトクエさんは朝食の準備を始めた。

文・斉藤洋一
写真・伊藤幸雄

(2007/5/29掲載)