■4・ニューヨークから 「表情のある糸探してた」
揚げ返しは小枠に巻き取った生糸を荷造りに便利なように大枠に巻き返す作業。おばあさんにとっては体力のいる仕事だ
繭糸商の石田明雄さん(53)=前橋市荒牧町=のもとに一通の手紙が届いた。便せんに黒いインクでしたためた便りは「赤城糸をぜひ注文させていただきたいと願っておりましたが、海外に住んでいるので、なかなか連絡できませんでした」で始まる。差し出し人の住所はニューヨーク市29番通り西135。日本の糸で布を織る植木多香子さん(31)の赤城の節糸への思いがつづられている。手紙は「糸作りを拝見させていただけないでしょうか」と結ばれていた。
植木さんは本当にやって来た。石田さんが案内したのはおせんさん(73)の仕事場。娘のころから糸引き一筋の石原せんさんは、赤城村溝呂木の自宅の隅っこにある離れで座繰(ざぐ)りを回していた。ここでもかつてお蚕を飼っていた。「家の中じゃ臭くて、すぐやめてくれって言われちゃうよ」といつもはつけっ放しにしておくラジオのスイッチを切ると、愛想よく笑った。冷たい風が吹き込むものの、繭を鉄なべで一日中煮ているので、意外に暖かい。
(2000年12月1日掲載)