絹人往来

絹人往来

■1・職人の技 江戸小紋を伝える

“繭の恵み”に未来を託せるのだろうか。だれもが不安になっている。養蚕、製糸、織物…。上州に根付いた糸をつむぐ仕事。安い外国産に押されて、産業の基盤そのものが揺らいでいる。だが、目を凝らすと、細く、長い糸の先にかすかな明かりが見えてくる。終章の第3部「希望」はそれぞれの夢をつなぎとめた糸をたぐり寄せてみる。そこには二十一世紀に受け継がなければならない人々の願いが込められている。

ジーパンに前掛け、小豆色のトレーナーのそでをまくり上げた藍田正雄さん(61)が、へらを使って、トタン板の上に敷いた生地に、たっぷり色糊(のり)を置いていく。

「死んだおやじはおっかなかったけど、おやじが板の上でひく衣ずれの音が好きだったね」。一息つくと、へら一枚にかける職人になったいきさつを話し始めた。群馬町足門の工房。柔らかな日がカーテン越しに差し込み、だるまストーブの中でまきが燃えている。

(2001年2月27日掲載)