絹人往来

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■10・一本の桑 「戦争前からあったんさ」

1月15日の小正月の準備で繭玉を飾る。山で切ったミズキの枝に団子を刺す。今年もよい繭が出来るようにと願いを込める
1月15日の小正月の準備で繭玉を飾る。山で切ったミズキの枝に団子を刺す。今年もよい繭が出来るようにと願いを込める

ごつごつした木肌はひび割れ、こけむしている。浅間おろしが高い梢(こずえ)の枝を揺らし、黄色くなった葉っぱがざわめく。安中市に隣接する松井田町人見の高台に一本の大桑がある。目通りは二メートル以上。いつからここに立っているんだろう。

「戦争前からあったんさ。いつ植えられたかわかんねえけど、あの梢くらいの太いのが二本あって、一本はずっと前に枯れたんさ」。近くでネギの取り入れ作業をしていた矢野好さん(71)=妙義町=が、大桑の高い梢を指さしながら、そう教えてくれた。桑の実ができるころには木の周りは一面真っ黒に見えるという。この大桑の周辺で今、農業構造改善事業が進められている。この大桑もこのままでは切り倒されてしまう。

(第1部 おわり)
文  内山 充 萩原俊一
写真 大浦佳代(フリーカメラマン)

(2000年12月12日掲載)