■5・アジアの糸 「世界のどこかに残るね」
養蚕は桑畑と共にある。枝ごと切ってそのまま蚕に与える。背負えるだけ束にして運ぶ。重労働だが、当たり前の風景だった
資本がなくても、家の中で簡単にできる。座繰(ざぐ)りの糸引きは、国を興す道具に適していたのだろう。かつての日本もそうだった。今、赤城山ろくで座繰り糸を引いているおばあさんは四十人ほど。あと十年もすれば絶えてしまう。なんとしてもこの技術をアジアの国に伝えたい。そこには座繰りを必要としている人々がいる。赤城の糸を商う石田明雄さん(53)=前橋市荒牧町=はその夢をたぐり寄せようとしている。
まず、移転先の候補に挙がったのはフィリピン。ここでは養蚕の先進国インドから技術を導入して養蚕が始まっている。繭の次は糸。より付加価値の高い商品をつくろうと、日本の座繰りに目を付けた。
(2000年12月2日掲載)