絹人往来

絹人往来

■1・汗と涙 時を越えて命はぐくむ

かつてのたたずまいを残す塩原蚕種。蚕を飼うために屋敷は驚くほど大きい。風を取り入れる最上部の屋根は養蚕農家の特徴のひとつだ=前橋市田口町
かつてのたたずまいを残す塩原蚕種。蚕を飼うために屋敷は驚くほど大きい。風を取り入れる最上部の屋根は養蚕農家の特徴のひとつだ=前橋市田口町

養蚕とは不思議な仕事である。同じ家の中で育てた小さな命を絶ち、そこから糸をつむぐ。船荷となった糸はやがて海を渡り、世界と結ばれていく。養蚕、生糸の国、そして織物の国だった上州―。人々は一本の細く長い糸にそれぞれの願いを込めていた。第2部「残照」はかつての栄光の日々から未来を見据えてみよう。失われようとしているものの中から、二十一世紀へ託した夢が、かすかによみがえってくる。

「お蚕が命をかけて吐(は)いた糸から、なんとか命の輝きを引き出してやりたいと思ってた」。竹重百合枝さん(52)=富岡市七日市=はそう言うと、テーブルの上に紙の箱を置いた。中に繭が入っている。真ん中がくびれ、やや小ぶり。「又昔(またむかし)」という明治の初めに普及した古い原蚕種である。

(2001年1月16日掲載)