絹人往来

絹人往来

■5・総出で花見を楽しむ

往時を忍ばせるれんが造りの「旧安田銀行担保倉庫」。乾燥した繭や生糸の保管のため、かつて糸の町・前橋には、こうした建物が幾棟も見られた=前橋市住吉町
往時を忍ばせるれんが造りの「旧安田銀行担保倉庫」。乾燥した繭や生糸の保管のため、かつて糸の町・前橋には、こうした建物が幾棟も見られた=前橋市住吉町

「そりゃ、にぎやかよ。とにかく糸の町でしょ。ほとんどが商売のお客様。取引がうまくいって、手打ちになれば、芸者衆総揚げで、三味線ひいてどんちゃん騒ぎね」。伊丹梅子さん(81)は帳場に座ると、こう切り出した。藤色の着物に黒い帯。伊丹さんは前橋市三河町の料亭「いたみ」の大おかみ。今でもお座敷に上がる現役だ。

その伊丹さんが語る町中のにぎわいは“糸へん景気”のたまものだった。上州の産物といえば繭、生糸、絹織物―どれをとっても手っ取り早く現金化できるものばかり。県庁所在地であり、製糸工場が多かった前橋の夜の主役は、こうした投機性の高い商品を扱う男たち。それを工場で働く若い娘たちが支えていた。

(2001年1月20日掲載)