絹先人考

絹先人考

■43・奥木仙五郎

栃窪風穴を造り、北毛地区の養蚕業発展に貢献した奥木仙五郎 (小林貞夫さん提供)
栃窪風穴を造り、北毛地区の養蚕業発展に貢献した奥木仙五郎 (小林貞夫さん提供)

新巻村(現東吾妻町新巻)では古くから、「お日待ち」という伝統行事が行われてきた。集落の住民が月に一回、日の沈むころに一軒の民家へ集まり、一緒に夕食を食べ、夜更けまでよもやま話に花を咲かせた。明治から大正にかけてのあるお日待ちで、村内に住む奥木仙五郎のことが話題に上った。

「仙五郎さんは縦に並んだ二つの輪の乗り物で、倒れないで走っているそうだ」

「そんなことはあるものか」

「横に倒れないわけがなかろう」

自転車が珍しいころのこと。村内で初めて買って乗り回った奥木の姿は、当時の住民には信じられない光景だった。

翌朝、皆はそろって奥木の家を訪ねた。奥木が目の前でさっそうと自転車を走らせると、皆はようやく納得したという。地方の農村に住みながらも、流行に敏感で、進取の気性に富んだ奥木の性格を象徴するエピソードだ。「群馬東村農業協同組合史」に記されている。

この性格が県北部の養蚕農家に大きな変革をもたらした。