第2部・織都桐生の近代化遺産
1・語れ織物の歩み 誇りを若い世代に 戦前収集の染料展示 2005/10/26
大正時代の雰囲気を伝える群馬大学工学部同窓記念会館
群馬大工学部(桐生市天神町)のシンボル「群馬大学工学部同窓記念会館」の一室から、ほこりをかぶった大量の薬瓶が見つかった。中身は工学部の前身、桐生高等染織学校の誕生した1915(大正4)年から戦前にかけて収集された染料。ドイツやスイスからの輸入物も含まれ、把握された本数は4312本にも及んだ。
瓶が出てきたのは、今月8日の工学部創立90周年記念式典開催に合わせ記念会館の展示を見直すため、工学部内に設けた記念会館展示資料整備小委員会が八月から行った調査でのことだった。
「染料が残っているのは知っていたが、これほどの数とは想像もできなかった。工学部が織物のまちとともに歩んできたことをあらためて感じました」。委員長の久米原宏之教授(61)は驚きを込めて話す。
◎未来志向
展示資料の見直しの基本は未来志向。「高校生らの若い世代が展示資料を見学して、古里の大学に誇りを持てるよう心掛けた」という。膨大な染料資料を生かして、一階に「染料資料室」を新設、希望者に公開できる態勢を整えた。2階には90年の足跡を紹介する年表を設け、年表の前に桐生織の一つ、お召しの生産に使う八丁撚糸(ねんし)機を据えた。「染め」と「織り」の原点を端的に示す試みだ。
木造2階建て瓦ぶきの記念会館は桐生高等染織学校の本館・講堂として16年に完成した。板張りの外装が特徴で、内部は西欧中世の教会堂に用いられたゴシックスタイルが基調。’98年に国の登録有形文化財となった。
◎保存へ運動
重な建物を失う危機に直面したことがある。35年前、工学部改築構想のもと、キャンパス内の建物のスクラップ&ビルドが現実の課題となった。これに対して学内で保存運動が起こり、結局、集中講義用の建物として保存の方向が固まった(同工学部七十五年史)。
後の工学部長で、当時教授だった松井弘次さん(89)は「大正時代の代表的な建物を残すことに学内は燃えていた。同窓会も一緒に文部省に要望し、保存を実現した」と学内の盛り上がりを思い返す。
大正時代の雰囲気を求めて、映画やテレビドラマのロケ、洋服やブライダル雑誌の撮影が同記念会館と周辺でたびたび行われる。同工学部管理係によると、映画などのロケは年間十件近くある。
見学者も確実に増えている。桐生市は6月に合併した新里、黒保根地区の住民を対象に「施設めぐり」を実施、「見ていただきたい旧市内の代表的な施設」(板橋昭広報広聴課長)に、有鄰館、桐生明治館などとともに同記念会館を選んだ。大学を外から見ている人たちも、同記念会館の魅力を鋭敏に感じている。
全国近代化遺産連絡協議会(会長・大沢善隆桐生市長)は29、30の両日、今年定めた「近代化遺産の日」の初めての記念事業を記念会館を主会場に開く。全国で最初の「近代化遺産拠点都市」を宣言したことなどが考慮された。大沢市長は「合併を終え、次の市政の重要課題は、まちづくりに近代化遺産をどう活用するか」と位置付ける。記念事業の開催を前に、市内に数多い宝物があらためて注目されている。その魅力や保存、活用の行方を追う。