絹の国の物語

絹の国の物語

第3部・碓氷製糸の挑戦

12・細野の糸 産地限定し差別化 2005/12/21

製糸前に汚れた繭などを取り除く選繭作業。質の良い生糸を作るには重要な工程だ
製糸前に汚れた繭などを取り除く選繭作業。質の良い生糸を作るには重要な工程だ

良質な繭の産地として知られる松井田町新井の細野地区。桑畑が点在する山あいの農村に、特別な観光名所はない。そこへ昨年、昨年と県外ナンバーの大型バスが止まり、数十人の団体が降り立った。養蚕農家へ研修に訪れた織物業者だった。

「こんなことは今まで一度もなかった。繭という、素材の大切さに目を向けてくれたのかな」。研修を受け入れた上原高好さん(58)は、絹業界の意識が変わるのを肌で感じた。

研修にはいくつもの織物業者や呉服店関係者が訪れた。遠く京都から、一晩中、車に揺られて来るグループもあった。その中の一組、京都市上京区の西陣織メーカー「西陣まいづる」が今年、細野地区の繭を指名して、生糸を買い取った。養蚕農家と織物業者の「提携」が出来上がった。


◎顔見える

 仲介役は松井田町の碓氷製糸農業協同組合だった。碓氷製糸はこれまで、全国から集めた繭を交ぜ合わせ、品質を均一にして生糸にしていた。ところが近年、中国やブラジル産の生糸の品質が向上。国産糸は外国産と差別化を図る必要に迫られた。「産地ごとに繭を分別して、生産者の顔が見える糸にしたらどうだろうか。付加価値になるんじゃないか」。高村育也組合長(59)は、新たな試みに挑戦した。

細野地区はかつて養蚕農家が300軒あったが、今では7軒にまで減った。それでも上原さんは、養蚕をやめようとは思っていない。「数が減った今だからこそ、各農家が繭の質を上げ、細野のブランドを高めようとまとまっている。いい影響が出ている」。上原さんは握ったしわの深い手に力を込め、力説する。

生糸を購入した西陣まいづるは、夏物の帯として製品化している。夏帯は生糸を精練せずに使うため、繭が汚れていれば、そのまま製品に表れてしまう。同社の舞鶴一雄社長(48)は「わずかな繭の汚れも許されない。特定の産地と提携することで、高品質で風合いが一定した糸を入手できる」とメリットを挙げる。細野地区だけの繭でひいた糸は、白さが従来よりも鮮やかで、こしがあり、職人たちを驚かせているという。

「提携」「顔が見える糸」といっても、碓氷製糸の作業に、大きな変化はない。交ぜ合わせていた繭を、地域ごとに区分けしただけ。それが養蚕農家と織物業者に大きな変革をもたらしている。一つのアイデアが、碓氷製糸にとって起死回生の一打になる可能性を秘めている。

◎最後の砦

本の蚕糸業界に吹く逆風は強い。戦後、県内に200以上あった器械製糸業者は次々と姿を消し、今では碓氷製糸が絹の国の伝統産業を守る最後の とりで砦となった。

「養蚕、製糸を“過去の歴史”にしないで」―。そんな県民の願いを背負いながら、碓氷製糸は新たな挑戦を重ね、逆風に向かって歩んでいる。

(おわり)
「第三部・碓氷製糸の挑戦」は文化生活部・斉藤洋一と富岡支局・千明良孝が担当しました。