絹の国の物語

絹の国の物語

第6部・島村を引き継ぐ

7・発信 世代超え輝く歴史 2006/9/2

改築した金井義明さんの家。暮らしてきた人たちの思いは世代を超えて伝わることになった
改築した金井義明さんの家。暮らしてきた人たちの思いは世代を超えて伝わることになった

ぐんま島村蚕種の会が毎週金曜日、境島村公民館(伊勢崎市境島村)で開く郷土史学習講座に、篠木百合子さん(46)は館林市から通う。

呉服店に生まれた篠木さんは富岡製糸場世界遺産伝道師協会の伝道師。「養蚕から製糸、織物へとつながる絹の流れの中で、絹畑(呉服店)に生きる自分の中の衝動に突き動かされるように伝道師になった」という。「イタリアへの蚕種の直輸出や田島弥平が考案した清涼育の実践など知れば知るほど島村はすごい」と、絹の流れの「源」を熱心に学んでいる。


◎極めて貴重

旧官営富岡製糸場を核に群馬の絹に関する産業遺産の世界遺産登録運動が活発化するなか、県世界遺産推進室は「島村の養蚕農家群を養蚕・製糸・織物を一連のシステムとして世界遺産登録を目指す上で大事」と位置づける。

「蚕種の集落として古い建物が大規模に群として残っている島村は、全国的規模でも有数で、極めて貴重」。文化庁・伝統的建造物群部門の熊本達哉主任文化財調査官は昨年十月、六合村赤岩地区に行く途中に立ち寄った島村の印象を語った。

貴重な島村の養蚕農家群だが、補修の経済的負担や建物の老朽化、家を引き継ぎ、守ってきた人たちの高齢化などで建物の維持は、極めて困難な状況にある。

蚕種の会の会員、金井義明さん(63)は一昨年、一八六八(明治元)年に建てられた二階建ての養蚕農家を改築した。使える部材はすべて使い、二つのやぐらを残した家はほぼ元通りに出来上がった。工事に携わった大工は「百年は保証します」と胸を張った。

新築か改築かで葛かっとう藤があった。最後の決め手は家への愛着だった。百三十八年前に家を建てた先祖、家を守ってきた祖父母や両親の思いを断ち切りたくなかったという。新築ではなく改築を選んだ。それでも工事が始まる前の一カ月間、金井さんは父と母の気配を感じ取れる家に一人で寝泊まりした。

金井さんは、この家で暮らしてきた人たちの思いを世代を超えて伝えることができて、ほっとしている。

◎活動に期待

 篠木さんは「養蚕から製糸、織物へとつながる『絹の流れ』の中で、島村が担ってきた輝かしい歴史をどんどん発信してほしい」と蚕種の会の活動に期待する。会員にも「活動はこれから」の思いが、強い。

過去に学び、今を見つめ、未来につなげる「島村の物語」は、幕が上がったばかりだ。

(おわり)
この連載は伊勢崎支局・田中茂が担当しました。