第2部・織都桐生の近代化遺産
2・西桐生駅と周辺住宅 77年前の施設は現役 2005/10/27
「近代化遺産の日」制定記念事業の支援イベントが計画される西桐生駅
1928(昭和3)年に完成した上毛電鉄西桐生駅は、桐生市宮前町の景観に完全にとけ込んでいる。
77年前の建設当時のまま、鉄道の現役施設が残っていることは奇跡的だ。市民にとって「日常的な風景」でありながら、牧歌的な雰囲気の屋根を持つ駅舎とプラットホームの上屋(うわや)は保存状態が良好で、和洋混在の特徴を今に伝える高い文化的価値を持っている。
国の文化審議会が有形文化財に登録するよう、9月に文部科学相に答申した。「西桐生駅の改築や建て直しの話は社内に一切なかった。建設当時の面影を残せたことが誇りです」。上毛電鉄の柴野孝司経理部長(59)は言う。
◎桐生の田園調布
織物のまち桐生と製糸のまち前橋を結んだ。1500ボルトの変電所を持つ近代的な鉄道としてデビュー。「蒸気機関車を走らせたことのない、開業から電車の路線でした」。鉄道の両側のまちの繁栄を物語る逸話だ。
出札窓口を建設当時に戻す作業が始まり、駅舎のライトアップが29日夜から始まる。初めての「近代化遺産の日」制定記念事業が桐生で繰り広げられる30日、開業当時から赤城南面を疾走してきたデハ101電車が同駅ホームで公開され、事業を支援する。
桐生市立図書館の大瀬祐太館長(57)は「西桐生駅は『なぜ西なのか』を考えるのが大切」と指摘する。上毛電鉄より四十年早く開通したJR両毛線桐生駅の真北に位置するが、当時の桐生の中心からは「西」だった。
織物で繁栄した桐生では、西桐生駅が完成した昭和3年前後の大正から昭和初期に、市街地の西側に新興住宅街が形づくられていった。同駅北側の宮本町界隈(かいわい)で、西洋館や和洋折衷住宅が数多く残る。市街地の機屋や大店(おおだな)の別邸として建てられたり、学校の校長らが移り住んだ。後に「桐生の田園調布」という呼称さえ生まれた。
◎モダンな建物
レンガ造りの建物に住む林テル子さん(86)は「父は本町で正絹お召しの機屋を営んでいた。この別邸は建設した当時もモダンでしたし、今でもモダンです」と話す。近くに、玄関周りに洋風の建築を施した和風の豪邸もある。
和風の建物に、西洋風のとんがり屋根を持つ家があるのも特徴だ。
イラストレーターの石原嵩士さん(48)は2001年、この和様折衷住宅に魅せられて移り住んだ。周辺の西洋館などをあわせて17軒を書き込んだ「宮本町和洋折衷住宅群MAP」を独自に作製。「西桐生駅から桐生が岡公園へ散策しながら、途中で和洋折衷住宅を探してみてほしい」と願っている。