絹の国の物語

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第3部・碓氷製糸の挑戦

9・絹織物 良質生糸に信頼感 2005/12/18

「糸を引いている事実があるからお客さんが買いに来る」と語る阿部さん。絹織物の仕上がりに自信を持つ
「糸を引いている事実があるからお客さんが買いに来る」と語る阿部さん。絹織物の仕上がりに自信を持つ

秋も深まっていた11月下旬の大安吉日。来春に結婚を控えるカップルが碓氷製糸農業協同組合(松井田町新堀)を訪ねて来た。男性側から結納品として贈る喪服を作るためだった。

机の上に上質な糸で仕上げられた絹織物が並べられていた。「うちは糸を作っている。実際に製糸をやっているから、みなさんが信頼して買いに来てくれるんですよ」。絹織物販売部の阿部文江さん(51)が相談を受けながら、丁寧に商品を説明する。決して売り付けるような接客はしない。

「母親の薦めもあって来てみた。いい物を長く着てもらいたい」。男性は、すぐ横で説明を聞く婚約者にやさしいまなざしを送った。


◎奮 闘

碓氷製糸は1977年から絹織物部門を本格的に始めた。組合で生産した生糸を機屋へ送り、加工した白生地を直接機屋から仕入れ、販売していた。それまで製糸を主力としてきた組合にとって新たな挑戦となった。

「最初は大変だったんだよ。どこへ行っても相手にされないんだ」。当時、総務部にいた高村育也組合長(59)は出張展示で各地を回っていた苦労話をしてくれた。「碓氷の生糸」という知名度はあったが、「碓氷の絹織物」というイメージはまったくない時代。とにかく存在を知ってもらうことに奮闘した。

次第に良質の生糸を使う反物の評価は高くなっていった。白生地だけでなく、江え どづま戸褄や色留め袖など幅広く扱うようになった。定着してくると、同組合の施設で年2回の展示会を開催。最近は七五三用として夏期を加えて年3回となった。ただ、商品をPRする活動は展示会のみ。それでもお客からの注文はひっきりなしに入ってくる。

客層は組合員を中心に、その親せきや友人など広がりをみせる。良質の生糸を使っているうえ、市場価格より安いというのが売り。「もうけようとは思わない。うちは糸(製糸)で食べている。歴代の組合長からも『少しでも組合員に値段を便宜しろ』と言われていますから」と阿部さんは語る。

同組合で生産した「あけぼの」や「ぐんま200」などの生糸が京都や福井の機屋を通じて江戸褄をはじめ、帯や小物類などに形を変える。自慢の生糸を使えば、恥じない商品が出来上がるのは当然。売る側は自信を持ってお客に紹介できる。

◎注 目

最近、阿部さんにとってうれしい出来事があった。7歳の七五三で着物を作った少女が成人式の振り袖を注文してくれたという。「本人に再会できたこともうれしかったけど、何より、もう一度うちに頼んでくれたことがうれしい」と声を弾ませる。

「本物」志向が高まる中、良質な生糸で作られる「碓氷の絹織物」が注目されている。