絹の国の物語

絹の国の物語

第5部・六合・赤岩の景観保存

2・住民の意識 歴史的価値見直す 2006/4/26

古い民家や蔵が建ち並ぶ六合村赤岩地区
古い民家や蔵が建ち並ぶ六合村赤岩地区

ゆっくりとした時が流れる六合村赤岩地区。集落北の水車小屋に置かれたベンチで、安原みかさん(81)と安原いち代さん(73)が日なたぼっこをしながら、同地区が選定の答申を受けた国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)のことを話していた。


◎きっかけ

「古い民家ばかり。特別な景色とは思っていなかったけど、最近は村外の人に『いい景色だ』ってよく言われるね」とみかさん。いち代さんも「都会の人にとっては、懐かしい、癒やしの場所に見えるんでしょう」と言葉を返す。

住民にとっては何十年間も変わらない、見慣れた風景。けれども養蚕で栄えた日本の歴史と民俗を伝える重要な景観でもあることを、住民一人一人が意識し始めている。

きっかけは10年以上も前。太田市内ケ島町の建築士、家泉博さん(58)が、ライフワークの古民家調査のため、赤岩地区を訪れた。集落のほぼ中央。重厚な土蔵造りの湯本滋さん(57)宅を調べ、歴史や構造の重要性を雑誌に発表した。「湯本家住宅」はその後、同村の重要文化財に指定された。

「赤岩地区は集落全体の景観も素晴らしい」と考えていた家泉さんは、建築士仲間とともに2002年8月、同地区の村保健センターでシンポジウムを開催した。「建物は“歴史の証人”。赤岩は養蚕業の特色が残っていて、全国的にも貴重な存在。大切にしてほしい」と、住民らに思いの丈を語った。

これに住民が応え、同年12月に赤岩伝統的建造物群検討委員会を発足。地区の建物や景観の価値を考え直し、重伝建として保存していこうという意識が芽生えた。

住民の保存意識に相反し、建物は老朽化していく。過去数年のうちに失われてしまった建物もある。

湯本尚好さん(61)の旧宅は明治末ごろの建築だった。「土台の木材が腐ってしまった。直しに直してきたけど、もう限界だった」という。大幅な修復は費用がかさむため、やむなく建て替えを選択した。

◎9割の補助

伝建選定により、今後こうした事情は大きく変わる。建物外観の修復や強度を保つための工事には、国や県、村から最大九割の補助を受けられる。建物を維持する住民にとって、大きな助けになる。

木暮勝伸さん(62)の家は、明治維新前後に建てられた当初、かやぶき屋根だった。維持の負担が大きいことなどから、20年以上前に鉄板の屋根に改築した。重伝建で村の景観が見直されているのを受けて、「いつの日か、かやぶきに戻すのも悪くない」と夢を持つ。

関衛さん(80)宅の小さい蔵は、老朽化で壁が大きく崩れている。「そう長くはもたないと思っていた。改築の補助があれば、なくなる運命の建物も保存していけるかもしれない」と関さんは語る。

昔から変わらずに残る家や蔵、石垣。変わってしまったかやぶき屋根。それらをとらえる住民の気持ちが、大きく変わりつつある。