第5部・六合・赤岩の景観保存
7・味わい 「暮らしぶり」に価値 2006/5/3
住民生活のさまがうかがえる赤岩地区の家々や石垣
六合村赤岩地区の湯本喜太郎さん(83)宅の物置が4月上旬、豆腐作りの体験小屋に生まれ変わった。オープンに先立って試験的な体験教室が開かれ、観光客13人と同地区住民が石のかまどで大豆をゆで、その大豆を石うすでひき、しみ豆腐を作り上げた。半日がかりの作業。観光客も住民も打ち解け、小屋の中は和やかな会話と笑顔があふれた。「楽しい時間が過ごせた」と湯本さんは喜ぶ。
◎交流の場
豆腐作り教室は、赤岩地区の住民有志が行うイベント。国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)となり、増えることが見込まれる観光客の受け皿として、整備された。
「車でさっと通り過ぎただけでは、赤岩の魅力は分かってもらえない。観光客と住民がゆっくり交流する場として、豆腐作り教室は大事」と、住民でつくる赤岩ふれあいの里委員会の篠原辰夫委員長(66)は語る。
この教室をきっかけに交流を深め、「農村に古里のない都会の人たちと、親せきのような長い付き合いができればいい」とも考えている。
篠原委員長はこれまでに、重伝建に選定された福島県下郷町の大内宿や長野県東御市の海野宿を視察した。きれいに整ったかやぶき屋根民家や街道沿いに並ぶ町家に強いインパクトは受けたが、「まるで映画のセット。観光地化されていて生活臭がない」と感じた。観光客が外観だけさっと見て、帰っていくのも残念だった。
赤岩地区は作り上げた観光地ではなく、長い年月をかけて自然に形成された集落。住民が実際に暮らし、庭に洗濯物を干し、周りの畑で作物を育てている。その生活臭こそが人々の感動を呼ぶ「深い味わい」となることを、篠原さんは願っている。
◎伝統と食
伝建を推進してきた六合村の山本三男村長(58)も、「赤岩は町並みだけでなく、住民の暮らしぶりに価値がある」ととらえている。
赤岩地区はわずか52軒。そこに神社一つと仏堂5つが建ち、春と秋には祭りが開かれている。毎月18日の「観音様の日」には、点在する仏堂や馬頭観音像を参拝して回る人もいるほど、伝統行事が暮らしの中に生きている。
食文化も豊か。教室で作る「しみ豆腐」は、畑作を行う寒冷な山村ならではの料理だ。住民は町並みとともに、伝統行事や食文化もしっかりと受け継いでいる。
「残念だが、ほかの農村は急速に変わってしまっている。あと数年もすれば、赤岩の希少性や重要性は誰の目にも明らかになる」。山本村長はきっぱりと言い切る。
目に見える町並みだけではない赤岩地区の魅力。その「味わい」は年月とともに一層深まっていく。