絹の国の物語

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第2部・織都桐生の近代化遺産

5・抵抗なく魅力受け入れ 文化財を使う人たち 2005/10/31

若い世代が高い関心を持つ、本町通りの「金善ビル」
若い世代が高い関心を持つ、本町通りの「金善ビル」

今年制定された「近代化遺産の日」記念事業の一環として30日、桐生市の有鄰館で、「近代化遺産の活用とまちづくり」をテーマにした座談会が開かれ、市内に240棟残るのこぎり屋根工場の活用例などが報告された。

「本物の歴史的価値を持つ建物を生かした、個性的なまちづくりが大切。桐生が世界遺産に入っていくには、伝統的建造物群(伝建群)の指定を受けているかどうかがハードルになり、桐生の一つの課題」。文化庁の江面嗣人(えづらつぐと)・主任文化財調査官は座談会の総括で、こう強調した。


◎いつかここに

 桐生明治館に市営の喫茶店ができてから、文化財の活用に抵抗感は少ない。大正時代ののこぎり屋根工場を活用した「織物参考館“紫(ゆかり)”」は、民間が文化財を使う道を切り開いた。森島純男館長(61)は「桐生を代表する工場として、皇室も来られた。壊す決断ができず、織物の歴史を紹介する展示に活路を見いだした」と振り返る。

座談会の開かれた市文化財の有鄰館は土蔵やれんが蔵を貸し出す形で、利用を拡大した。1992年からの利用者は55万人を超え、音楽、演劇、作品展示などに使われている。岡田一男館長(67)は「利用者が蔵の魅力を最大限利用して楽しんでいる」と語る。

本町通りの鉄筋コンクリート造り地上四階、地下一階の金善(かなぜん)ビルには六月下旬、カフェー&バーが開店。群馬大工学部で学んだ北海道生まれの岡野琢磨さん(30)が経営する。「桐生の建物に興味があり、金善ビルはずっと気になっていた。一階の5メートル近い天井もゆったり感がある。『いつかここに店を』と夢見ていた」と話す。

◎保存を第一に

善ビルは「北関東有数のノッポビル」の時代もあるのに建設年が特定できない。群馬近代化遺産総合調査報告書は「昭和初期の桐生の繁栄を示すシンボル」と評価し、「1926年築」とする。だが、ビルを所有する金居光子さん(83)は「前の世代の人が『関東大震災(’23年9月)の時に揺れて揺れて』と話すのを聞いた」と思い返す。

震災前の洋風建築はれんが造りが主流。震災で大きな被害を受けた反省から、耐震の鉄筋コンクリートが普及する。前と後で金善ビルの意味づけが変わりかねない。

そんな注目される建物でも、「文化財と重く考えず、若者が建物の魅力を素直に受け入れて使うようになった」(市教委文化財保護課)のも最近の傾向だ。

30日の座談会で、文化庁の北河大次郎・文化財調査官は「桐生のみなさんは全国の先頭に立って近代化遺産を活用している。これからも保存を第一に、遺産を活用してほしい」と助言した。

(おわり)
「第二部・織都桐生の近代化遺産」は桐生支局・山脇孝雄が担当しました。