絹の国の物語

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第6部・島村を引き継ぐ

5・人材 足跡の案内役養成 2006/08/31

県蚕糸課長や県農政部技監を務め、県職員として養蚕を支えてきた関口政雄さんは「島村の養蚕・蚕種業」のテーマで講義した
県蚕糸課長や県農政部技監を務め、県職員として養蚕を支えてきた関口政雄さんは「島村の養蚕・蚕種業」のテーマで講義した

「蚕種の村・島村を案内する観光ガイドのボランティアを養成したい」。ぐんま島村蚕種の会の副会長、栗原寿郎さん(74)は、蚕種の会が本年度中に取り組みたい活動を語る。

島村を訪れる人がここ数年、急増していることが、ガイド養成の背景にある。旧官営富岡製糸場を核とする産業遺産の世界遺産登録運動が活発化するなか、「蚕種で栄えた島村を見てみたい」という人が、足を運んでいるようだ。


◎業績を紹介

案内するコース設定やガイド文のマニュアルを作るガイド養成は、蚕種の会の豊富な人材に支えられている。

蚕種の会が七月から十月まで地元の境島村公民館(伊勢崎市境島村)で十回にわたって開いている郷土史学習講座の講師陣は、すべて会員。開講初日は、旧境町の文化財調査委員を務めたこともある関口敏広さん(70)が「島村の蚕種とその文化をたずねて」のテーマで講義。島村の沿革や蚕種業の起こり、「養蚕新論」を著した田島弥平ら先人の業績などを分かりやすく説明した。

講師陣には関口さんのほか蚕種の会会長で弥平の子孫の田島健一さん(76)、県職員として養蚕を支えてきた関口政雄さん(73)らがいる。栗原さんも自ら役員を務める「島村教会」をテーマに最終講義を担当する。

◎人を呼ぶ

観光ガイドは、島村に人を呼び込む大きな要素になる」と、伊勢崎市教委文化財保護課は蚕種の会の計画を高く評価する。

伊勢崎市の重要文化財、旧森村家住宅(連取町)は毎月第一、第三日曜の一般公開の日に、市の委託を受けた旧森村家住宅協力会の会員約四十人が交代で、訪れる人たちへの案内とパンフレット配布を行っている。建物を会場に「絣(かすり)の魅力展」などを企画したこともあって昨年度は約二千三百人が訪れた。

市教委文化財保護課の板橋春夫主幹は「人がいることで、そこにコミュニケーションが生まれる。その人の思い出話だけでも訪れた人をもてなす。人が人を呼ぶ」と迎える態勢に人を組み込むことの重要性を説く。

蚕種の会が養成した観光ガイドが、やぐらの残る養蚕農家群や健一さん宅に残る「養蚕新論」の版木、そして、島村の渡船(とせん)をゆったりと案内する。「会員たちの島村」が、人から人へと広がっていく日も近い。