絹の国の物語

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第3部・碓氷製糸の挑戦

5・存続へ苦渋の選択 繭入荷 2005/12/14

一時的に乾燥場に収納されている繭の袋。今年は昨年の2倍近い入荷量となった
一時的に乾燥場に収納されている繭の袋。今年は昨年の2倍近い入荷量となった

全国でここ数年、器械製糸場が相次ぎ閉鎖された。この事態が「生き残った」碓氷製糸農業協同組合(松井田町新堀)の経営に影響を与え始めている。

碓氷製糸は今年、482トンの繭を入荷した。入荷先は北の宮城県から南の鹿児島県まで、本県を含めれば22府県にも及ぶ。総入荷量が274トンだった昨年に比べて1.76倍に膨れ上がった。

今年に入って高知県の藤村製糸、茨城県の須藤製糸が廃業。2工場が受け入れていた繭を、国内で残る碓氷製糸と山形県の松岡で引き取ることになった。碓氷製糸では倉庫内に繭の産地別に収納しているため、急増して入りきらない繭の袋が一時的に乾燥場に積み上げられている状態となっている。


◎想定外

 碓氷製糸に県外の繭が入るようになったのは、長野県の組合製糸・天竜社が操業をやめた八年前。高村育也組合長(59)は「地元の農協を通じて要請を受けた。安定した所に卸したいという希望だった。引き受けるのが組合製糸の任務だった」と振り返る。この時にはまだ現在のような情勢になることを予想できなかった。

碓氷製糸は六年ほど前から繭の入荷量が減少していくことを予測し、工場内の設備縮小を図ってきた。大型の繰糸機を1セットずつ減らし、小型繰糸機や上州座繰り機などに切り替えてきた。大量生産から少量で高品質という方向性を目指してきただけに、今年のような大量入荷は想定外だった。

大量に増えた繭の入荷は多方面で経営に影響を与えている。各地から送られてくる繭に対して、碓氷製糸は運賃として1キロ当たり100円の負担をしている。入荷先が3倍以上になった今年はその負担が大きくなった。

さらに悩みとなっているのが繭の消費である。大量に入荷された繭を減らすのが精いっぱいの状況で、このままだと来年の新繭に手がつけられないという。時間外労働などで生産量を上げるという選択肢もあるが、現在の糸価では採算が合わない。毎日入荷される繭を乾燥させるために稼働しているボイラーは燃料の重油が高騰している。

◎危惧

村組合長は養蚕農家を守るために繭の受け入れを続けたいと思っている。ただ、その負担がいずれ碓氷製糸の灯を消すことにつながりかねないことも危惧(きぐ)する。

「来年は入荷時期などについて、うちも要求を出すかもしれない。守れない地域からは受け入れることはできないだろう。本当は要求などしたくないが、自分たちを守るためにはそれしかない」。苦渋の選択を迫られている。