絹の国の物語

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第5部・六合・赤岩の景観保存

6・重伝建に夢さまざま Uターン 2006/5/2

外観を純和風にした新居を建てた武藤さん一家
外観を純和風にした新居を建てた武藤さん一家

結婚8年目の若い夫婦と、定年退職を4年後に控えた熟年夫婦。2組の家族が、六合村赤岩地区を新たな生活の場に選んだ。念願のマイホームを建てたり、生まれ育った実家に戻ったり。国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)となる静かな農村の暮らしに、それぞれの夢を抱いている。


◎純和風の家

 草津町のアパートに住んでいた同村産業建設課の武藤勝年さん(31)は昨年11月、生まれ育った赤岩地区にマイホームを建てた。木の柱としっくいの壁で外観を純和風に仕上げた平屋建て。「古里の心温まる景色が好きだから、そこから浮いてしまわないように意識した」という。武藤さんの願った通り、新居は周囲の古民家や畑、山林に違和感なく溶け込んだ。

建築費用は坪50―60万円。一般的な住宅の5割増し。家計の負担は小さくない。それでも武藤さんは、「長く住める丈夫な家を建てただけ」と、気にも留めない。

周りには江戸、明治、大正、昭和期の民家が建ち並ぶ。武藤さんの家はそこへ、“平成の日本民家”という新しい息吹を注いだ。「この家のおかげで、ぼくも赤岩の仲間入りができるかな」。今はまだ真新しい新居が50年後、重伝建の対象建物の一つになることを夢見ている。

◎自給自足

内の銀行に勤める中之条町伊勢町の篠原一美さん(56)は、定年退職まであと4年。退職後は妻と二人で、母の住む赤岩地区の実家にUターンし、第二の人生を始めるつもりだ。「自給自足の農業をして、訪れる観光客にお茶でも出せたら、それで幸せ」。のどかな老後の日々を思い描いている。

篠原さんは学校を卒業後、父親とともに同地区で酪農や林業に就いたものの、思うような収入が得られなかった。やむなく会社勤めを始め、さいたま市への転勤で古里を離れた。

同市のマンションを買う契約の一歩手前で、「田舎に住みたい」と小学生だった娘3人に言われ、目が覚めた。「私たち家族はやっぱり田舎育ち。都会に暮らしていても、心が落ち着く場所は田舎なんだ」。子供たちが素朴な心を失っていなかったことが、うれしかった。

中之条町に建てた家は、退職とともに娘に譲る。築70年以上になる赤岩地区の生家に戻り、畑を耕し、毎日のんびり過ごそうと考えている。

「観光客と交流したり、若いころにできなかった畑作をしたり、定年退職者には最高のぜいたくだな」。重伝建の地で踏み出す新たな生活を楽しみに、残された会社員の時を味わっている。