絹の国の物語

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第3部・碓氷製糸の挑戦

4・ボイラー 重油高騰で赤字増 2005/12/13

燃料費がかからない優れものだった雑燃ボイラーだが、廃棄物処理法の改正により現在は運転できない
燃料費がかからない優れものだった雑燃ボイラーだが、廃棄物処理法の改正により現在は運転できない

国内製糸業界の現状は厳しい。1950年には全国に約1300社あった器械製糸場だが、昨年末にはわずか4社になり、さらに今年2月には、高知県の藤村製糸、6月に茨城県の須藤製糸が相次いで操業をやめ、残るは本県の碓氷製糸農業協同組合(松井田町新堀)と山形県の「松岡」だけになった。しかも松岡は10年以上赤字続き。碓氷製糸も過去3年赤字決算で、今年も厳しい収支が予想される。国内製糸業の存続に、予断を許さない状況が続いている。

「あの雑燃ボイラーが使えたら、どんなに心強いか…」。碓氷製糸の高村育也組合長(59)は、ため息交じりにつぶやいた。応接室の窓の向こうには、ボイラーの煙突が見える。木くずを燃やし、その熱で繭を加工していた。だがダイオキシン規制の新基準を受けて、3年前から稼働が止まっている。

◎副収入

雑燃ボイラーは1981年に設置された。燃料となる木くずは、トラックの荷台に山積みとなり、首都圏各地から毎日のように運ばれてきた。碓氷製糸は次々と焼却し、処理代金として年間600万円以上の副収入を得ていた。

製糸場内は、ボイラーが生む熱気であふれていた。仕入れた繭は、中のさなぎを殺すため、5、6時間も熱風を当てる。繰糸作業では、大量の湯で繭を煮る。ボイラーは毎日フル稼働。「職員は冬でも半袖1枚だけ。それだけあちこちで、蒸気や湯を使っているということ」と、高村組合長は説明する。

だが、2002年12月、廃棄物処理法の改正により、ごみ焼却施設の排出ガス規制が厳しくなった。やむを得ず、重油を燃料とする新しいボイラーが設置された。

設置当時、重油は1リットル28円。今年は53円まで高騰した。消費量は多い日で5000リットルに上るため、最高値ならば26万円以上になる計算だ。

昨年の燃料費は、2000万円に達した。今年はそれを大きく上回る見通し。木くずを燃やす雑燃ボイラーならば、逆に処理代600万円が入っていたはず。それを含めた差額は3000万円近くになる。

◎厳しい冬

 ボイラーの更新が、収支に与える影響は大きい。雑燃ボイラーが使えた2001年度は650万円の黒字。重油ボイラーを導入した’02年度に、2200万円の赤字へ転落。以後毎年2、3千万円の赤字が続いている。赤字額はちょうど、燃料費と入らなくなった木くず処理代に相当する額である。

冬本番はこれから。碓氷川から引く水は冷たさを増し、重油ボイラーで蒸気をつくるにも、燃料費はさらにかさむ。碓氷製糸にとっても、国内製糸業にとっても、かつてない厳しい冬を迎えようとしている。