絹人往来

絹人往来

■5・又昔

40年来の養蚕農家 永井はんさん(71)
40年来の養蚕農家 永井はんさん(71)

沼田市上原町の永井美喜夫さん(73)方の蚕室で、通常より一回り小さな蚕が桑の葉を食(は)んでいた。品種改良されていない、日本古来の蚕「又昔(またむかし)」だ。妻のはんさん(71)が雨戸を開けると、薄暗い室内に、梅雨空の柔らかい光が差し込んだ。純白の蚕。輝いて見えた。

光沢に優れた又昔の糸。反物に仕上げると、柄が浮かび上がって見える。品質は申し分ないものの、収繭量が極端に少ないのが難点だ。江戸時代中期から飼われていたが、一九一五(大正四)年ごろに品種改良された蚕が普及すると、又昔を育てる人はいなくなった。

(2005年6月26日掲載)