絹人往来

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■56・真綿紬

養蚕から機織りまで 竹重 百合枝さん
養蚕から機織りまで 竹重 百合枝さん

静けさの漂う工房内に小気味よい機の音が響きわたる。明治期に使われていた機織り機が動くたび、素朴でぬくもりのある真綿紬(つむぎ)の着尺地が少しずつ出来上がってくる。

竹重百合枝さん(58)=富岡市七日市=は三十年近く養蚕から機織りにいたる一連の工程を一人でこなしてきた。知人からの依頼を受けては年に一反ずつ製作に取り掛かる。現在は一時的に養蚕だけを休んでいるが、「またいつか始めたい。どの工程も全部好きなんです」とほほ笑む。

地元養蚕農家の二女に生まれ、小学一年から当たり前のように家業を手伝ってきた。

「昔は子供も重要な働き手。母屋の二階だけじゃ場所が足りなくて、お蚕と一緒に隔てなく暮らしていた。私もお蚕が好きだった」

仕事の手伝いをしていたある時、白く大きい繭が出荷された後に、おけいっぱいに残った繭を見つけた。形がいびつなものや汚れている規格外のくず繭だった。繭の出荷に二つのルートがあることに気付き、ただ同然の値段で取引されるくず繭に心を痛めた。

(2006年9月3日掲載)