■54・紋紙
周東紋切所社長 周東 英次さん
苦い思い出がある。
三十年以上も前だが、仕事仲間と東北地方の都市へ親睦(しんぼく)旅行に出かけ、懇親会で、桐生産の帯を着けた女性の接待を受けた。「良い帯を安く買えた」。得意げに話す女性から聞いた買値は、出荷価格の十数倍だった。
「桐生の帯がどういうルートで東北に流れたかは分からない。たまたまレアケースにぶつかったのだろうが、驚きと同時に憤りを感じた」
桐生織を特徴づける紋織りは経(たて)糸を自在に持ち上げ、色の付いた緯(よこ)糸を通して織物に思うままの図柄を描く。一作品で数百本、時に数千本になる経糸をコントロールするのが「紋紙」だ。
(2006年8月20日掲載)