■21・風穴
産業考古学会会員 原田喬さん(65)
下仁田町南野牧に屋敷という地区がある。標高八百㍍を超えるその集落から続く細い山道を進むと、林の中に石垣が見えてくる。三㍍近い高さに石が積まれた穴は三カ所。足を踏み入れれば、ひんやりとした空気が辺りに漂う。
荒船風穴。一九〇〇年代初頭に完成した「天然の冷蔵庫」は蚕種貯蔵に使われた。その規模は国内最大といわれ、明治期の養蚕業を大きく発達させた。しかし、現在では大部分が草に覆われ、当時の面影をわずかに残すばかりだ。
「この産業がなければ、日本の近代化は遅れていたかもしれない。整備して保存しなければいけないだろう」。産業考古学会(本部・東京)のメンバーとして調査を進める原田喬さん(65)=前橋市下新田町=は岩肌を触りながら言う。「養蚕の危機を救った施設に、もう一度光を当てたい」と願い、活動を進めている。
(2005年11月13日掲載)