■35・天蚕生糸財
糸引き技術を継承 朝比奈 清子さん
養蚕農家、登坂昭夫さん(62)宅の工房=中之条町山田=では冬の間、生産した野蚕(やさん)の天蚕の繭から糸をひく作業が続いている。繰糸機を前に、軽やかな手つきで生糸を操るのは朝比奈清子さん(63)=同町中之条。かつて地元の製糸会社「光山社」で三十年間、糸を取ってきたベテランだ。
三重県桑名市生まれ。幼少時、母の生まれ育った中之条町に疎開してきた。
一九五七(昭和三十二)年、中学を卒業するとすぐ、光山社に就職した。当時はまだ製糸業が盛んなころ。工場は早朝五時から夜十時まで、二交代でフル操業していた。
製糸工場ではベテラン工女が「教婦」として、新人を厳しく指導していた。生糸の結び方から歩き方、身なりまで指導された。「教婦さんはピー、ピーと笛を鳴らしてね。怖かった。スカーフをしていたら、機械に巻き込まれるからだめだと怒られた。本当に怒られてばかり。でもあのころは楽しかった」
(2006年3月19日掲載)