■14・座繰り
手で糸をひき半世紀 山橲アキ子さん(72)
富士見村石井の民家。庭先にわずか一坪の小屋が建つ。その中で山橲アキ子さん(72)が上州座繰り器を回すと、繭から伸びる幾筋もの糸は、一本の座繰り糸に姿を変える。「外国の生糸が出回ってるって聞いてるよ。でも私は昨日も今日も糸をひけている。昔と何も変わってないよ」。明るい声は、糸をひく楽しさに満ちている。
和歌山県生まれ。五人きょうだいの第四子。五歳で父を亡くした。終戦の年に小学校を卒業し、同県岩出町にあった吉村製糸へ働きに出た。全国から女性工員三百人が集まる大製糸場。幼くして家族と離れた寂しさも、次第にまぎれた。苦労する母に給料を手渡すことを楽しみに、日々の仕事に励んだ。
(2005年9月25日掲載)