■51・野蚕飼育
養農林業 高橋 隆さん
自然豊かな奥多野地域に建つ約三十平方メートルの小さなハウス。十数本あるカシの枝の所々に、野蚕(やさん)に属するウスタビガと天蚕(てんさん)の幼虫が作った緑色の繭が付いている。夏の陽光を浴びた形の違う二種類の繭は色鮮やかに、その存在感を示している。
農林業を営む高橋隆さん(67)=神流町神ケ原=は一九九一年から野蚕の飼育に取り組んでいる。緑色の繭に魅せられた一人である。生産した繭の一部は民芸品として娘夫婦が経営する飲食店で販売し、残りは倉庫にしまってある。いつか自分の手で糸をつむぐことを夢見ている。
野蚕との運命的な出合いは恵まれた自然環境がもたらした。九一年、自宅裏にあるカシの垣根の刈り込みをしていると、大きな緑色の幼虫を見つけた。「見たことはないが、天蚕じゃないのか?」。テレビで見かけた記憶を頼りに急いで図鑑を調べて、確信した。
(2006年7月30日掲載)