■33・ブーケ
元養蚕農家 白石幸江さん
純白のブーケには、母の愛が込められている。花びらに触れると、優しい手のぬくもりが伝わってくる。「このブーケは新婦のお母様が、自ら育てた繭でお作りになりました」。十二年前、結婚披露宴の会場で司会者がアナウンスすると、皆の目が一斉にブーケへ注がれた。新婦は胸を張り、“繭の花”を客席へ向けながら、ひな壇へ歩いた。末席の母は涙をこらえ、娘の晴れ姿を見守っていた。
ブーケを作った「母」は、安中市野殿の白石幸江さん(66)。「私はずっと養蚕をしてきた。重労働で大変だったときも、子供たちの笑顔に癒やされた。だから自分の育てた繭で、何かしてあげたかった」。娘への愛と祝福、感謝の気持ちを込めて、花びら一枚一枚を丁寧に作った。
榛名町上大島の農家の生まれ。一帯は県内有数のナシ産地だが、それでもナシ栽培と兼業で、養蚕をしていた。母が中心に育て、上蔟(じょうぞく)の時は一家で手伝った。「蚕って不格好。でもふっくらして、軟らかくてかわいいね」。子供のころ、そんな会話を交わしながら、蚕をわらまぶしに入れた思い出がある。
(2006年3月5日掲載)