■59・こだわり
染織工房主宰 奈良 千恵子さん
手放せない「一着」がある。その紬(つむぎ)の着物は今、落ち着いたあずき色の光沢を放つ。
奈良千恵子さん(57)=桐生市宮本町=は、二十年以上前の三十歳代に「お気に入り」を作り上げた。
「もともとは赤みの強い紫色でした。着物が自分と一緒に年を取って、いつも年相応に身に着けることができた」
自然の恵みを強く感じている。「天然の染料は時とともに変化し、年を加える自分を追ってくるようでした」
染料は茜(あかね)、コブシ、矢車(やしゃ)、藍(あい)、梅、桜など自然のあらゆるものを使う。草木が生み出す色が、先染めの織物にこだわる作品づくりを支えてきた。
着物づくりは結婚がきっかけだった。「嫁ぎ先に、夫が購入した織機があった。夫が織らないなら-と奮い立った」。三十二歳の時だった。
「桐生で生まれ、機音を聞いて育った。和裁の先生だった母親の着物姿をいつも見ていた。自由になる織機に触発されて『自分の着物を織ってみたい』と思った」
(2006年9月24日掲載)