赤城型民家 思い出の家守りたい 伊藤 保雄さん(73) 富士見村皆沢 掲載日:2006/06/22
赤城型民家を前に思い出を語る伊藤さん
赤城山の南麓に広がる富士見村は、かつて養蚕が盛んだった。その名残を伝えるのが、養蚕のための改良を施した茅葺(かやぶ)きの木造住宅「赤城型民家」。同村の皆沢地区では昔ながらの姿を見ることができる。
中でも伊藤保雄さん(73)方の赤城型民家は築140年、手を加えずに保っている最も古い建物の一つと言われている。
「明治の初めに祖父が建てたと聞いている。何代前から始めたのか分からないくらいずっと以前から養蚕を続けてきた。この家で生まれ育ったんだよ」
赤城型民家は屋根裏や2階を「蚕室」として有効活用するため、採光と風通しを良くしている。屋根の中央正面を切り落とした「切り上げせがい造り」と呼ばれる。
「上蔟(じょうぞく)のときには、居間や座敷一面に蚕を広げてね。畳をはがして場所を作ったり、2階や3階の屋根裏も使ったもんだ」
妻の当志子さん(73)とともに養蚕に励み、最盛期には2人で年間1.5トンも出荷したという。村でも指折りの養蚕家で皆沢地区の蚕種の飼育主任も任された。
「自分が育てる蚕種の出来によって、その年の地区全員の養蚕の出来を左右してしまう。毎日必死になってやっていたよ」
1986年に、本業にしていた花の栽培が忙しくなったため、養蚕をやめた。家を新築したが、生まれ育った赤城型民家はそのまま残すことにした。
同民家の手入れは欠かさずに続けて来た。屋根の葺き替えをしたのは今から35年前。ほころびが目立ってきたものの、改修は難しいという。
「昔は村の中に何人も専門の茅葺き職人がいたんだが、もうできる人はいなくなってしまった。どんな形でもいいから残せればいいけど、私の代で最後かな」
屋根の葺き替えには1回数百万円かかると言われる。「村が移築して保存を」との声もあるが、維持管理費用がかさむため、具体化していない。
「つらいことも楽しいことも詰まった思い出のある家だから、壊すには惜しくてね。できる限り守り続けたい」