「婦志の錦」 和菓子で養蚕伝える 小林長三郎さん(56) 藤岡市藤岡 掲載日:2008/07/29
謹製所の看板の前で「婦志の錦」を手にして思いを語る小林さん
1905(明治38)年に創業した和菓子店「虎屋本店」の三代目として店を支えている。創業時に祖父の初代・長三郎が繭や生糸などをかたどった和菓子「藤岡桑の光」を考案した。その後すぐに、藤岡の地名にちなみ「婦志(ふじ)の錦」と名称が改められ、現在も店頭に並ぶ。
「地場産業の養蚕をお菓子で表現している。盛んだった時期は養蚕文化をPRする広告塔として、今では養蚕の歴史を物語る一品として役割を果たす。時代の変化とともにその価値も変わってきた」
「婦志の錦」は、養蚕を象徴する種板、桑の葉、ガ、繭、生糸の5種類で構成。味、色、形ともに考案当時と変わっていない。種板はしそ、桑の葉は抹茶、ガは麦らくがん、繭はくず湯、生糸はらくがんでリアルに表現し、養蚕の一連の流れを和菓子で表している。
「蚕のお菓子もあったが、あまりに色や形が似ていたので、お客から気味が悪いという指摘を受けて、時期は分からないが商品から外したという話を聞いている」
34(昭和9)年、天皇皇后両陛下に献上したのをはじめ、各種品評会で入賞。89(平成元)年には全国菓子大博覧会で、名誉無鑑査賞を受賞した。店内には両陛下に献上したことを記念して作ったとされる「婦志の錦謹製所」と記した木製の看板が掲げられている。
店頭に並ぶだけでなく、県立歴史博物館の企画展でお茶菓子として出されたり、都内の呉服店から注文を受けるなど現在でも人気は根強い。
「養蚕に直接かかわったことはないが、小学校の帰り道、よく桑の実を食べながら帰っていた。盛んだった養蚕を和菓子を通して伝えていけることはうれしい」
世界遺産暫定リスト入りした旧官営富岡製糸場を中心とする絹産業遺産群の世界遺産登録運動が盛り上がりをみせる中、産業振興をリードした養蚕の文化が再び見直されていることを喜ぶ。
「お菓子作りを通じて情報発信の担い手になろうと思っている。おじいさんが作った『婦志の錦』が養蚕文化の歴史の一ページをひもとく手助けになってくれたらいい」