省力化 母の負担、機械で軽減 斎藤 敏弘さん(63) 伊勢崎市境木島 掲載日:2006/08/09
「養蚕の省力化に研究を重ねてきた」と言う斎藤さん
上州名物として「かかあ天下」が登場するのは、明治になってからだという。
養蚕が盛んだった本県は、製糸・織物業などを通じて女性が一家の中心として働いていた。そして男たちは、働き者の女性を「うちのかかあは天下一」と言って自慢した。この言葉から「は」と「一」が抜けて「かかあ天下」が生まれた―という説があるほど、養蚕は長い間女性によって支えられてきた。
だが、その仕事がいかにきつく、重労働であるかは、蚕を繭になるまで飼育したことのある人なら、だれでも体で知り尽くしている。
「省力化でもっと楽に養蚕ができないものだろうか」。斎藤さんが漠然とそんな思いを抱き始めたのは、中学生のころだった。
米麦、養蚕の典型的な農家に生まれ、子供のころは桑摘みなどの作業を手伝わされた。省力化への思いは、これが一つのきっかけだが、それ以上に「母親が睡眠時間を削って桑くれしているのを見て、胸が締め付けられた」と言う。
県蚕業試験場の研究員として39年間過ごし、機械による省力化の研究に没頭した。「農家で使える蚕業技術の研究が中心でした」
勤務して間もなく生糸生産のピークを迎えた。「農家は新しい技術を求めていたので、ちょっとした工夫でもすぐに受け入れられた。だが、試行錯誤の連続で、改良に改良を重ねる日々だった」
そんな中で自慢のヒット作は「自動熟蚕収集機」。熟蚕を集めて回転まぶしに入れる時に使う機械だ。
「狙いは上蔟(じょうぞく)作業を軽減させようという点にある。上蔟にかかる労力は、養蚕全体の16―17%だが、作業そのものはわずか2日間に集中するため、相当な人手が必要になる。考案した機械は60%の省力化が可能で、農家にとても喜ばれましたよ」
振り返ると、家族だけでやれる養蚕を追い求め、省力技術の開発と作業方式の確立に努めた39年間だった。
「換算すると、繭1キロの生産に必要な労働時間は現在1.5時間で、機械化される以前の4―5時間に比べて3分の1。省力化は相当進んでいることが分かります」
県立日本絹の里(高崎市金古町)で養蚕の展示解説をしながら、時の移ろいをかみしめている。