絹人往来

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座繰り 工程知り新たな視界 宮下寿美江さん(53) 富士見村原之郷 掲載日:2008/09/10


「座繰りの文化が残っていってほしい」と語る宮下さん
「座繰りの文化が残っていってほしい」と語る宮下さん

 座繰りに出合い、生糸の美しさを知った。幼いころから蚕は身近な存在で、実家は今も養蚕を続けるが、座繰りに触れたのは七年ほど前のこと。知人に誘われ、県繭糸技術センター(当時・前橋市)で行われた講習会に参加したのがきっかけだった。
 「座繰りで引いた糸の光沢が何とも言えずきれいだなあと思った。昔の人が繭から着物を作り、発展させてきた歴史を考えるとすごい。その糸を吐き出すお蚕さんはすごいと思うようになった」
 養蚕に取り組む両親の仕事を間近に見てきた。
 「夏場は家の一室を蚕の部屋にし、隣の部屋に蚕がいた。桑をあげたり、上蔟(じょうぞく)を手助けしたり。今でも忙しい時期には手伝っている。将来的には両親の仕事を継ぎ、自分でもやってみたいという気持ちもある」
 養蚕のことは詳しいが、その先の工程に関する知識はなかった。座繰りを始めたことで新たな視界が開けた。
 「座繰りを通して、さまざまな人と接触できた。糸を引く人や機織りをする人、染色をする人。シルクにかかわる知らなかった工程を知ることができた」
 熟練の手作業と勘が必要であることも身をもって知った。上達しようと、友人とともに県立日本絹の里(高崎市)に通い、練習を続けた。
 「座繰りでは糸を同じ太さにすることが難しい。蚕は最初の方は太い糸を吐き出すが、終わりに近づくにつれ、細くなってくる。それを頭に入れながら、わずかなさじ加減で均一の太さにしていく。なかなかその感覚がつかめない。それに繭を煮る微妙な温度調整も求められる」
 新しい目標もできた。3年ほど前から、自宅の庭のくぬぎの木を利用して天蚕にチャレンジしているが、その繭の糸を引いてみたいと思うようになった。天蚕の繭は、薄い緑色をし、家蚕の繭とは異なる独特な色合いをもつ。
 「最初の1、2年はほとんどできなかったが、今年初めて20個の繭がとれた。将来的には自宅の庭にあるくぬぎの木をもっと増やし、本格的にやってみたい」。薄緑の繭は今、自宅の冷蔵庫で大切に保管されている。

(前橋支局 須藤拓生)