絹人往来

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桑苗 良質な繭に欠かせず 佐藤 稔さん(72) 千代田町舞木 掲載日:2006/08/08


耕運機に取り付けて桑の根を刈る道具。「これが秘密兵器なんだ」と語る佐藤さん
耕運機に取り付けて桑の根を刈る道具。「これが秘密兵器なんだ」と語る佐藤さん

 桑苗の生産に長年携わってきた。良質な桑を与えれば、いい繭ができる。養蚕には欠かせない大切な仕事だ。
 「九州から種を仕入れて、入梅前に種をまき、11月ごろ掘り出す。その根を台木に春の彼岸ごろ、種からだけだと、葉が大きく育たないから、質のいい桑を接木する。この接木が大変。雑菌が入らないよう気を使って。接木して20日ぐらいで、ついたか、つかないかが分かる。ついたものだけをまた植えていく」。
 そして秋以降、高さ90センチ、根回りが直径8ミリ以上になったのを見計らい刈り取る。桑苗は東毛地域に出回った。
 「老朽化した桑を蚕にやっていると、いい繭がとれなくなる。桑は3年で一人前の成木になる。10年に1度ぐらい植え替えるのが理想的。若い旺盛な葉の方が栄養があって、質のいい繭がとれるんだ。自分でも養蚕をしていたから、飼っている蚕に若い桑を与えることができ、一石二鳥だった」
 もともと実家は養蚕農家だった。蚕は幼いころから身近にあった。桑苗に取り組んだのは、妻ナツ子さん(72)の父親が邑楽桑苗組合長を務めていたことが大きい。
 「桑苗は昭和40年ごろから、妻に教えてもらいながら始めた。米麦と比較して、収入が良かったのが魅力だった。この辺りは多いとき、10人ぐらいが桑苗をやっていた。千代田町の植木は有名だが、桑苗から植木屋になった人も多い」
 桑苗は相場に左右される。生糸の相場がよければ、桑苗の値も上がる。当時、同面積ならば米麦に比べると、平均で5倍ぐらいの収入があった。
 ただ仕事はきつい。びっしりとはった桑の根を切って、掘り出すのは特に重労働。耕運機につける刃で根を切れば楽だが、それでも大変だった。「いいことも悪いこともあったけど、人並みの生活をできたのは、桑苗のおかげ。苦労して育てたものが1本も残らず最後まで売れたときが何よりの喜びだった」。
 1990年ごろまで桑苗の生産を続けた。72歳の今も、米麦を作るため元気に田に向かう毎日だ。

(大泉支局 須藤拓生)