絹人往来

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染織 自宅の織機で着物 草場スミ子さん(71) 高崎市倉賀野町 掲載日:2008/08/28


「息子の嫁たちに着物を織ってあげるのが目標」と話す草場さん
「息子の嫁たちに着物を織ってあげるのが目標」と話す草場さん

 トン、トン、シュッ―。自宅2階の作業部屋からリズムがある織機の音が響く。
 ペダルを踏んで経(たて)糸を上下に分け、その間に杼(ひ)を入れて緯(よこ)糸を通す。●(おさ)打ちして、経糸と緯糸を組み込む。この動作の繰り返しで織り進む。
 「1枚の着物を織るまでには長い時間が必要。でもそれは余計なことを考えず、無になれる幸せな時間でもある」
 繭から紡いだ絹糸を染め、柄をデザインして、織機で織っていく。「同じ織物でもシルクは光沢があり、手触りが違う。だから生糸を使っている時は気分も高まる」
 生まれたのは山口県。結婚し夫の転勤で35年前、高崎市に来た。
 「群馬に来てから山歩きを始め、体が丈夫になった。いろいろなことに挑戦するようになり、趣味や交友関係も広がった」
 染織に興味を持ったのは13年前、県立近代美術館で染織の作品展を見たことがきっかけ。「(同市の)染色工芸館で体験できると聞いて、草木染やあい染めなどの講習会に参加した。染めをやったら楽しくて、織りもやりたくなった」
 自宅近くの織り教室で基本を習得。その技術を生かして、日本絹の里が募集する織り教室のボランティアにも参加した。
 そこで出会ったのが染織作家の岡田教子さん。プロの技術の奥深さに触れ「少しでも近づけるようになりたい」と6年前、岡田さんが始めた機織り教室に通い始めた。
 「染織の基本を丁寧に教えてもらっている。なかなか思うようにはいかないが、下手は下手なりに楽しんでいる」。平織り、綾(あや)織りと少しずつ技術の幅も広がってきた。
 絹の里でボランティアを続けながら、友の会でも活動。年1回の工芸展に出品しているが、腕前は年々上達している。
 7月の高崎市民美術展では、美しいデザインのタペストリーを出品し、特選に選ばれた。「うれしさと同時にもっと頑張ろうという気持ちになった」。評価を受けたことで、さらに染織への情熱は強くなった。
 「一つの作品を制作する時、たくさんのイメージがわき、夢が広がる。それを追い掛けて、少しずつステップアップしたい」

(高崎支社 萩原武史)
編注:●は"草カンムリに成"