絹人往来

絹人往来

和服販売 生地見極める目利き 岸野 政吉さん(73) 太田市東本町 掲載日:2007/09/11


商品を見る目の重要性を強調する岸野さん
商品を見る目の重要性を強調する岸野さん

 「問屋さんに言われるままの値段で買っているようでは駄目。勉強して商品を見る目を養わなければ、お客さんに高いばかりの着物を売ることになってしまう」
 太田市中心街で和服専門の小売店「きしのや」を開業して40年余り。和服だけを商材とする小売業者が少なくなる中、家族経営でのれんを守り、「安い着物」に執着した商いを続ける。
 「だからこそ本当に自信を持って売れる品物しか扱わない。置いているのは絹や毛、麻、綿で作られているものだけ。化学繊維には手を出さない」
 個々の商品の目利きに加え、徒弟時代からつながる産地との太いパイプが商売を支える。
 「産地の問屋をよく知り、長く付き合っているから安く仕入れられる」
 太田市出身で、教員になるつもりで都内の大学に進学した。だが、京都の呉服問屋を家業に持つ同級生を頼って京都に行くことを決め、教員になるのを辞めた。
 「『おい、京都に行くぞ』と、急に友達に連絡して押しかけた。群馬に帰るお金も無いから、そのまま呉服問屋に勤めてしまった」
 最初は戸惑いもあったが、次第に自信を付け、独立したいと考えるようになった。そのために絹製品の着物をはじめ、商品を適正な価格で仕入れる目を養った。時には寝ずに勉強し、後輩の面倒もよくみた。
 「会社も認めてくれ、4年半たって群馬に帰るころには、月給は10倍以上の5万円になっていた。群馬で同じ給料の勤め先を探そうとしても見つからなかった」
 「着物は息をしている」と商品をビニール袋に入れることをしない。国内産、外国産絹の肌触りや、反物のわずかな重さの違いなど手で持つだけで分かる感覚は体に染み付いている。
 「着物は高いというイメージがあるので、変えていきたいと思っている。経営は厳しいけれど、体の動く限りは商売を続けたい」

(太田支社 塚越毅)