絹人往来

絹人往来

公民館事業 関心集める天蚕飼育 藤生 安茂さん(56) 桐生市菱町 掲載日:2007/11/01


天蚕(左)と蚕の糸を手に「来年は両方飼ってみたい」と話す藤生さん
天蚕(左)と蚕の糸を手に「来年は両方
飼ってみたい」と話す藤生さん

 光を浴びた生糸がやわらかな緑色に輝く。クヌギ、コナラの葉を食べ、まるまると育った天蚕(てんさん)の繭から繰り出した。変わった絹糸を見ようと、桐生桜木西公民館に足を運ぶ住民は多い。
 「この地域は、まだ桑畑が点在する。蚕なら地域のお年寄りから子供まで共通して興味を持つ。桑の木が元気なうちに生きた蚕を体験してほしかった」
 2006年4月、同公民館長に就任。同5月から館内で蚕の飼育を始めた。
 「蚕が繭を作る前は1日4回必ず桑の葉を与えた。1度自宅に帰り、夜、再び公民館に戻ってきて桑くれをやったこともあった」
 熱意は実り、1枚の回転蔟(まぶし)に白い繭ができた。近所の人から倉庫に眠っていた座繰り器を借り、糸繰りをした。
 「蚕は外に出ないが、飼い始めた時、職員から『夜中に蚕がはい出したらどうしますか』という質問もあった。ふんを見て植物の種と想像する人もいた。それくらい、蚕と触れ合う機会が少ない」
 みどり市大間々町生まれ。実家は農家で蚕を飼っていた。桑刈りから繭を出荷するまで、1連の作業を高校生まで手伝っていた。
 「当時は手伝いがおっくうでしかたなかったが、今になって、あのころの経験が生きている」
 今年は趣向を変えて天蚕に挑戦した。野生の天蚕は水を好み、成育が難しい。30匹いた天蚕は15匹に減ったが、7月には木の枝に立派な緑色の繭を作った。
 「蚕を見て『気持ち悪い』と顔をしかめる子供が、しばらくすると『本当はかわいいのかな』と少しずつ興味を示す。蚕は子供にとって新鮮で、お年寄りには懐かしい。話の輪が広がればいい」
 飼育を通して感じたことがあった。
 「蚕、機(はた)、織物とシルクにまつわる個々の仕事はとても多いが、すべてが独立している。絹関係全体の仕事が減る中で、これからは横のつながりが重要になる」
 地域住民は、異色の公民館事業を期待する。
 「いきなり機織りをする訳にはいかない。来年は天蚕と蚕を両方同時に育ててみようかな」

(桐生支局 五十嵐啓介)