絹人往来

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共同桑園 蚕の餌に神経とがらす 岡部 和雄さん(68) 太田市強戸町 掲載日:2008/09/03


「養蚕の作業はすっかり慣れたもんだ」と話す岡部さん
「養蚕の作業はすっかり慣れたもんだ」と話す岡部さん

 「ぬれた桑では良い繭を作ってくれないので、雨が降ると桑の葉を乾かさなければいけない。天気が良いにこしたことはない」
 太田市強戸町の実家に隣接する建屋で現在も養蚕を続けている。かつては年4回に上った蚕の世話も、最近は春、夏、晩秋の3度になり、年間10箱の蚕から約150キロの繭を収穫する。
 5世代近く続く農家の家系。「気がついた時から家に蚕がいる生活だった。当時は寝る所もなくなった」と幼少期を振り返る。
 今でこそ、桑の葉を枝ごと切り取って、そのまま蚕に与えているが、当時は桑の葉を1枚1枚丁寧に摘み取り、それを餌にしていたという。現在の作業は機械が中心となり、大半が自動化。「機械化など技術の進歩もあり、だいぶ楽になってきた」と笑う。
 最盛期には地区のほとんどの家が養蚕に従事。「地域のみんなで土地を出し合い、共同桑園もつくった。地域の共同飼育所ではみんなとばか話をしながら作業していたが、その中で養蚕の技術を教え合った」
 一時はその共同飼育所で採桑係も担当。連日、飼育係の指示に従い、軽トラック数台分の桑を仲間と集めてきた。
 「桑が多くとれなかった当時は、木の下の方に生えている桑を晩秋用に残していた。ただ、陽の当たった良い桑を与えないと、蚕は良い繭を作らないので、晩秋はあまり繭を収穫できなかった」
 現在は市内五カ所の桑畑から桑の葉を集めている。「最近は害虫の被害が多くなってきた。消毒をすると、蚕の餌にするまで二週間近く待たないといけない」と顔を曇らせる。
 近所の畑では軒並み野菜を生産しており、「周りの農家が農薬を使わないでいてくれるので、ありがたい。農薬のかかった桑の葉を食べると、蚕が繭を作ってくれない」と蚕の餌に関する悩みは尽きない。
 長年、蚕にかかわってきた知識の蓄積に加え、技術なども進歩したことで、「全部が駄目になることは少なくなった」。それでも、今でも収穫した繭の荷出しを終えると「ほっとする」。そう語る表情は穏やかだ。

(太田支社 毒島正幸)