絹人往来

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回転蔟 品質保つ魔法の箱 清水 定雄さん(79) 太田市尾島町 掲載日:2006/07/18


「回転蔟は高品質の繭をとるのに優れている」と話す清水さん
「回転蔟は高品質の繭をとるのに優れている」と話す清水さん

 国道354号と県道由良深谷線が交わる南側にかつて、県是蚕種尾島出張所があった。1949年、高校を卒業した清水定雄さんは県蚕業試験場蚕業講習所(前橋市総社町)の本科に入学後、養蚕指導員として出張所に籍を置き、蚕の飼い方などの指導にあたった。
 「先生、先生と呼ばれて、尾島周辺や埼玉の妻沼、岡部の農家を訪ね、手取り足取りでやってみせたもんさね」。蚕が菌に侵されないよう、防毒マスクを着け蚕室をホルマリンで消毒したという。
 蚕種製造にあたり、品質の良い繭を育てたいという信念で「種取り」に専心した。日本種とシナ(中国)種のオス、メスがうまく交尾できるよう、細心の注意を払った。
 「水洗いした種が催青(さいせい)すると蚕が孵(かえ)る。その間、部屋を新聞紙などで目張りし炭や石油ストーブで温めた。二週間ぐらいは寝ずの番をしたもんさ。わが家に戻るのは月に一度くらいだった」
 身を粉にして働いた結果、肝臓を患い、職場も配置転換になった。「蚕種作業の合間を見計らい、技術指導と称して1日に2カ所、午前と午後各3時間ほどの講習を開いたもんさ。不安な農家にはつきっきりだった気がする」
 「蚕が菌で死んだときは白粉をふく。『こしゃり病』といって、さなぎも大きくならないから繭も目方が半分になっちゃう。反対に『たれっこ』という軟化病になると繭が腐ってしまい商品にならない。本当に蚕は気を使う生き物だよ」
 55年ごろから、繭をとるのに、わら蔟(まぶし)からボール紙でできた回転蔟が導入された。
 「製糸工場から補助金が各農家に出てさ。蚕が繭を作り始めると小便をするんだが、わらに引っ掛かって色がついたり品質は悪い。『回転』は箱の穴からおしりを出し、下に小便が落ちる仕組み。さなぎも病気にならず高品質の繭がとれる」
 蚕種の保管と温度を一定に保つ作業を見守ってきた。蚕種が出発点なら回転蔟は仕上げの段階。
 「誰が考案したのかは知らないが先人の知恵は大したもの。蚕の性質を知り尽くしている。魔法の箱みたいさね」と、蔟を持つ手に力が入る。

(太田支社 潮田尚志)