絹人往来

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機料店 道具探し機屋支える 安藤 嘉一さん(56)  桐生市宮前町 掲載日:2008/11/19


シャトルを手に「機屋の要望には、できる限り応えていきたい」と話す安藤さん
シャトルを手に「機屋の要望には、できる限り応えていきたい」と話す安藤さん

 織物のまち桐生で、機屋が使うもろもろの織機や道具を提供する安藤紡織用品の社長を務める。
 「祖父の代に栃木の佐野で創業、昭和30年代に桐生に営業所を設けた。桐生を中心に絹を扱っている機屋は300社ぐらいあるだろうか」
 「織物の衰退で織機や部品の入手が難しくなっている。緯糸(よこいと)を経糸(たていと)の間にスムーズに入れるシャトルや、シャトルを打ち出すピッカーなど、全国から機屋の要望する品物を探している」
 1本のシャトルを調達するにも、特注扱いとなって、価格は数年前に比べ倍に跳ね上がった。織物不況と道具価格の高騰のダブルパンチ。使える部品を調達するために、廃業する機屋に出かけて織機を引き受けるケースも増えた。
 「新品を右から左に動かすだけでは産地を維持できない。中古屋さんのようだ」。全国ベースでは、廃業する同業者も多い。残った機料店の守備範囲が広がる。
 金沢市の織機メーカーに最近出かけた。
 「最新のドビー機の講習を社員と最新機を導入する機屋さんと一緒に受けてきた。今回は緯糸を飛ばす新しい技術、エアージェットとウオータージェットを学んだ」
 最新鋭機を導入する機屋が桐生にあることが心の支えになっている。だが、その桐生の機屋も、経営者の高齢化が進む。
 「夫婦だけでやっている機屋は、夫婦のどちらかが体調を壊すと廃業に直結する。なじみの機屋がやめるのはつらい」
 「要望は年々難しくなっているが、今までお世話になってきた機屋のためにという意識はもちろんある」と打ち明ける。
 「天然繊維の絹は仕上がりの風合いが良い」。絹と桐生で培われた技術への信頼は厚い。
 「桐生は多種多様なハイレベルの織物を作る技術がある。もともと、機屋の要望を満たすだけでも大変な地域だから。桐生で通用する織機や道具なら全国どこでも通用する。桐生は織機や道具の発展を促した産地であることをもっと誇って良い」と話す。
 織機や道具の提供を通して、織物産地の実態を間近に見続けてきた目には、織物のまちの誇りと伝統が焼きついている。

(桐生支局 山脇孝雄)