絹人往来

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天然染色 美しく丈夫な色追求 竹沢 要次郎さん(71) 桐生市梅田町 掲載日:2008/09/18


「美しく実用性ある品を追求したい」と、ベニバナで染めた縮緬(ちりめん)を持つ竹沢さん
「美しく実用性ある品を追求したい」と、ベニバナで染めた縮緬(ちりめん)を持つ竹沢さん

 山紫水明の桐生市梅田町に工房を持つ。入り口には白抜きの暖簾(のれん)「天然染色 御染処 本染工房」がかかる。農家のたたずまいをそっくり借りた。蔵を改造した展示室は優しい色合いの絹のストールやショールが並ぶ。オープン以来14年、草木や花を使った膨大な数の天然色を生み出してきた。
 「木の葉は光によって色が変わる。明るさや深み、鮮やかさ。緑色一つとっても千差万別。同じように、天然素材で染めた繊維もまったく違う表情を見せる。清流が絶えない梅田で、理想の色を追求したい」
 桐生生まれ。かつての群馬大学工業短期大学部で学び、横浜の染色メーカーで働いた。10年後に帰省して洋服生地を染める会社を設立、80人の従業員がいた。しかし、会社は1984年に倒産。その後主宰したハーブ染め教室が、94年の工房設立のきっかけとなった。
 「草木染は時間がたつと、どうしても色がくすむ。美しく、丈夫に染まり、長く色の変わらない原料や技法を見つけたかった」
 工房内の保冷室は1年中15度以下を維持。イチョウやアカネグサなど、約50種類の染色材料を保存している。
 「退色や色落ちしにくい堅牢(けんろう)度の強い色を作るため、試行錯誤の繰り返し。県繊維工業試験場で耐光をテストし、群大工学部で光度のデータを取った。口伝書も参考にする」
 研究は評価され、大手メーカーの水着を染めたり、ブランド「ポール・スミス」に布地を出荷した。天然染色の可能性を大きく広げた。
 研究の傍ら、主に着物を染める。白生地を染め上げた反物は、独特の柔らかな色彩を放つ。
 「あせらず、あきらめず、継続する気持ちでやってきた。研究の精度をさらに高め、今までの成果もまとめたい。私の跡は娘が引き継ぐ。孫にバトンが渡れば、さらに良い色が見つかる」
 「あと10年が勝負」と思っている。
 「絹は繊維の中で1番美しい。日本の風土に合い、産業、文化、経済とあらゆる面に根差してきた。特に群馬はシルクなしには語れない。絶やしてはならない」
 無限の色に立ち向かう姿勢が、実年齢を感じさせない若さの秘訣(ひけつ)でもある。

(桐生支局 五十嵐啓介)