絹人往来

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表装 絹生かすデザイン提案 入沢 洋子さん(60) 高崎市八千代町 掲載日:2008/07/31


「洋間の多い現代の住まいにも合う作品をデザインしたい」と話す入沢さん
「洋間の多い現代の住まいにも
合う作品をデザインしたい」と話す入沢さん

 打ち掛けの刺しゅう部分をあしらった屏風(びょうぶ)、自ら染色した絹地で仕立てた掛け軸、帯を表紙に再利用した折れ画帖(がじょう)―。
 5年前、夫の定年退職を機に、本格的に表装作家として歩み始め、現代生活にも溶け込む作品を数々、生み出してきた。
 「表装を習い始めたのは17年前。テレビドラマで篠ひろ子さん演じる主婦が自宅で表装する姿を見て、主婦にもできるんだと思った」
 当時は主婦がカルチャースクールに通うのがはやり。ちょうど前橋市内で表装教室が始まり、子育ても一段落したため、習ってみようと思った。
 「表具に使うのは、ほとんど絹。平安や室町時代には、能の衣装や僧侶のけさのような良いものをほどき、裏打ちして表装した。絹は高級感と光沢が違う」
 伝統的な表装は、小麦粉を水で溶いて作るしょうふのりを使い、すべて手作業。紙と布地という異素材を一つの面にする難しさがある。
 「木綿や化学繊維は掛け軸が反ってしまったり、裏打ちで布がばりばりに固くなってしまうこともある。絹は高価な分、いいものができる」
 創作を続けてきた背景には「デザイン表装」との出合いが大きい。習い始めて一年半がたったころ、江戸表具伝統工芸士、清水達也さんの教室の作品展を見た。
 「タペストリー感覚の軸が数点飾られていて、とても斬新なデザインだった。後になってそれが清水さんの作品で、『デザイン表装』というものだと知った」
 手仕事の良さと自らデザインする面白さに魅せられ、美術館に足を運んでセンスを磨いたり、染色やステンシルなどの表現技法も独学で身に付けた。失敗を繰り返しながら経験を積み、12年前、自宅に工房を構えた。
 書の表装だけでなく、本紙のない軸作品や古布を使った屏風など、アイデアを膨らませる。表装用の布地を使った画帖や和とじノートなどの文具シリーズは昨年度、県の「グッドデザインぐんま」に選ばれた。
 「軸や屏風は季節感を出し、空間を落ち着かせる。おしゃれでデザイン性に富んだ作品を提案しながら、表装の伝統技術を残したい」

(高崎支社 天笠美由紀)