絹人往来

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達成感 生産継続へ心の支え 吉田 整美さん(64) 吉井町黒熊 掲載日:2007/09/29


繭が作られた回転蔟の前で養蚕への思いを語る吉田さん
繭が作られた回転蔟の前で養蚕への思いを語る吉田さん

 2004年から多野藤岡農協養蚕部会の会長を務めている。繭の生産対策として開かれる技術指導の研修に参加し、地域の養蚕農家の活性化に尽力している。
 「全盛期に比べると、出荷量も養蚕農家も激減し、厳しい現状だが、養蚕振興を図っていきたい」
 父親の代から養蚕を始め、年4回繭を出荷している。ピーク時に比べると出荷量は8分の1ほど。以前は黒熊地域に共同飼育所が2カ所あり、ほとんどの農家が養蚕をしていた。今では飼育所は閉鎖され、養蚕農家も10分の1になった。
 「自分にとって蚕はペットのようなもの。繭ができた時の達成感があるから今でも続けている」
 養蚕部会に所属している農家は約60世帯。温度管理や休眠している蚕の取り扱い方などを学ぶ研修会を開催。旧官営富岡製糸場や碓氷製糸農業協同組合などの視察も行っている。
 地道な活動を通して養蚕農家の活気を取り戻そうと力を注ぐが、蚕をウイルスやカビから守る粉末状の消毒薬品が3、4年前からなくなったという。
 「薬品会社によると、製造拠点が海外に移り、販売できなくなったという。今は辞めた農家から残った薬品をもらったりして支障はないが、いずれなくなった時に無農薬で蚕を育てるのは厳しい。養蚕農家があるのだから、県や関係機関は何らかの対応をしてもらいたい。このままでは農家の生産意欲が低下してしまう」
 旧官営富岡製糸場が世界遺産の候補となり、盛り上がりを見せる中、養蚕農家の今後を真剣に考えている。
 「富岡製糸場が世界遺産になっても、生産者がいなくなっては、まさに『仏作って魂入れず』だ。どれだけできるか分からないが、養蚕を維持できるように努力していきたい」

(藤岡支局 林哲也)