和裁 義母の“贈り物”に感謝 工藤 静子さん(69) 高崎市上大島町 掲載日:2007/10/23
「どんなに忙しくても、和裁で肩は凝らない」と話す工藤さん
「和裁をするなんて夢にも思わなかった。生活のためにしていたのが、だんだん好きになって寝ずに縫いたいと思った」
同い年の夫が急死したのが27歳のとき。3歳の長女と1歳の長男を抱え、途方に暮れた。高校卒業後、編み物や洋裁の学校に通ったが、外で働いた経験はなかった。
「義母から『この仕事をしてみたら』と勧められたのが和裁だった。最初は義母が印付けをして真っすぐ縫えばいいようにしてくれた。“先生”がそばにいたから、1、2年で着物1枚縫えるようになった。苦手意識があったけど、これをしなくちゃ食べていけない。真剣だった」
夫を思うと涙が出るときもあったが、悲しんでいる暇はなかった。好きだった洋裁も、編み物もやめた。
15年前に90歳で亡くなった義母は独学で和裁を身に付けた、と聞いた。
「習い始めて10年ほどたって、義母の印付けは独特の方法だと気付いた。いろいろな雑誌を見ても載っていない。着物を縫うには裏が長すぎても、表が短すぎても困るけど、義母の方法は合理的で早い上に狂いがなかった」
昭和の時代は全盛期。仕事が絶えることはなく、家事をしてくれる体がもう1つほしいと思ったほどだった。
「縫い始めると夢中になってしまう。着物が出来上がるのも楽しいけど、縫うこと自体が楽しい。中でも、絹は手触りがいい。針の通りが良くて、自然と手が運ぶ。成人式用の振り袖など柄合わせは大好きで、合わないときは1日かけてじっくり合わせる」
ここ10年ほどは、古い着物を上下2部式にして帯を締めなくても着られるようにリフォームしたり、祖母が着た着物の丈を長くしてほしい、といった依頼が増えている。古い着物を大切に着たいという気持ちをうれしく思う。
長男一家と同居し、小学4年と2年の孫娘が帰宅するまでの午後の数時間が仕事の時間。
「和裁に出会えたことに感謝している。義母は私に和裁のすべてを教えてくれた。この技術をなくすのはもったいない。孫がもう少し大きくなったら教えて、引き継げたら」
そう願いながら針を持ち続けている。