繭買い 奔走60年体続く限り 米川 武雄さん(84) みどり市大間々町浅原 掲載日:2008/09/06
かくしゃくとしてバイクに繭を積み込む米川さん
23歳で、養蚕農家から繭を買い製糸会社に売る「繭買い」を始め、60年たった今も現役。バイクに乗り北毛と東毛を走り回る。
「初めは自転車やリヤカーで農家を回った。その後オートバイになり、1960年代はトラックを何台も頼んで集めた」
商売の仕方は父親に仕込まれた。「最盛期は二千軒を回り、二千キログラムを超す繭を買った。労働賃金が1日250円ほどだった時代で、5万円もうけたこともある」
「この小さな集落(旧福岡村)にも同業者が6人いた。昼間、現金を支払って買い取り、夜に集めて前橋の乾燥所に持ち込む。1日に3往復したこともしばしば。寝る暇がなかったよ」
蚕は繭を作ってから十日ほどで成虫になる。商品価値がなくなってしまうので、必然的に売買期間は集中する。
「現金を支払うと、近所の何軒かが一カ所に集めておいてくれる。変な繭があったことはない。お互いに信用できる世の中だった」
当時は春、夏、初秋、晩秋、晩々秋の5回、なじみの農家を巡った。今は春、夏、晩秋の3期に沼田、桐生、太田市内の農家60軒を回るのが精いっぱいだ。
質の良い上繭以外のくず繭は引き取り手がない。昔は座繰りで引いて自家製として活用した。
「平成以降は商売として成り立たない。それまでの付き合いがあるので『来てくれ』の声があるうちは行かなければ。買わないと、農家はいけるか、燃やすしかない。せっかくの繭を捨てるのはもったいないよ」
買い手もすべて個人。長年の付き合いで開拓したところに持っていく。
買い付け時期には、朝4時に愛用のバイクで自宅を出る。7時前には、荷台に繭を袋いっぱい積んで帰宅する。「昔、軍隊で鍛えたからできるんだ。生のものだから一週間置けない」と胸を張る。
昨今のガソリン高騰に頭を悩ます。「ガソリン代が1回5、600円もかかる。利幅もどんどんなくなった」と嘆きながらも、「損得ではなく、生きがいだよな。体が続く限りやる」と、かくしゃくたる姿勢でバイクにまたがる。