着付け 和装の“心”伝えたい 永井さち子さん(78) 前橋市二之宮町 掲載日:2007/12/22
着物文化を伝え続ける永井さん。手にするのは母が作った着物
30年間にわたって着物の着付け教室を開き、伝統文化を伝えている。
「着物は日本の民族衣装。帯を結ぶことによって『よし、やるぞ』と気持ちが締まり、体もしゃきっとする。茶道の時、きぬ擦れの『さっさっ』という音は何とも言えない」
大きな養蚕農家の家に生まれ、嫁ぎ先も養蚕関係の仕事をしていた。その経験が今の仕事にも生きている。
「学校から帰ってくるとかばんを放り出して桑畑に向かった。その時は父親が子供たちをリヤカーに乗せてくれた。桑摘みをして採る量によってお小遣いをくれたり、楽しかった。私たちの世代がいなくなれば、繭から着物ができるまでを実際に知る人はいなくなってしまうのではないか。だから蚕のことも教室では教えている」
夫の章睦さん(78)は、義父の好雄さん(故人)とともに本格的な蚕種販売を手掛けていた。その仕事を辞めた後も1970年代まで養蚕を続けた。
夫は繊維関係の会社を起業、自身も第2の仕事を探した時、着物を選ぶのは自然な流れだった。
「着物が廃れて行く中、何か役に立ちたいと思った。自分なりに着物を着てきたが、教えるにはルールを覚えなければならない。それで全日本着物コンサルタントの資格を取り、自宅に教室を構えた。このほか、3カ所の公民館で20年以上教えている」
成人式の際、実母のともさん(故人)が作ってくれた、思い出の着物を今も大事にしている。
「母が嫁に行く娘たち3人に作ってくれた。当時の母親たちは娘にそういうことをしてくれた。昔の人は偉かった。教室に習いに来るのは、母親の着物や母親からもらった着物を着たくて来る生徒が多い」
92年に心筋こうそくを患ったが、今は回復。着物への愛着はますます強まっているという。
「着る時も鏡を見ないでできる楽な着付けを目指したい。1人で短時間で日常的に着られるようにするのが教室のモットー。命のある限り、着装と立ち振る舞いを伝えていきたい」