着物 娘の振り袖縫う幸せ 宇田 加代子さん(60) 伊勢崎市新栄町 掲載日:2007/09/28
七五三のお祝いの時に着た着物。1番大切にしている着物だ
鮮やかな赤の布地にツルやまり、張り子のネコがくっきりと浮かび上がる子供の晴れ着。
「数えたことはないけれど30枚を超える私の着物の中で1番大切にしているものが、この七五三の晴れ着です。絵柄のデザインは今となっては古いけど、これに替わるものはない」
着物は40年前に47歳で亡くなった母の思い出につながる。
「普段は養蚕などの農作業で真っ黒になっている母だったが、学校の行事があると着物でビシッと決めて現れた。子供ながらもその変身ぶりには驚いた。着物は母によく着付けてもらった。私が死んだ時、ひつぎには母が成人式のために買ってくれた着物を入れるように息子たちには伝えてある」
好きな着物を自分で縫えないのは悔しいと、1985年の秋ごろから和裁を習った。高校卒業後に3年ほど指導を受けたこともあって1年後には頼まれて着物を縫うようになった。呉服屋からも依頼が来た。
「好きだったから一生懸命やったけど、和裁に1番大切な右手の親指と人さし指がしびれて針を持つことができなくなった。和裁は昨年いっぱいでやめざるを得なかった。21年間に縫い上げた着物は、浴衣や子供の祝い着も含めて592枚になった」
6年前の成人式で長女は、渋い赤の布地にサクラが描かれた振り袖を着た。
「娘に自分で縫った着物を着せるのが長年の夢でした。娘と一緒に選んだ反物を自分の手で縫い上げた分だけ、ほんのちょっとだけだけど母を超えられたかなと思う」
月に1度は必ず着物を着ている。
「着ることを怠ると着付けの技量が落ちてしまう。半年も着物を着ないと後ろに手が回らなくなって帯が結べなくなってしまう。それに着物を着ると、母に会える。母に優しく抱かれているような気持ちになる。今の仕事はあと1年で辞める予定。それからはできれば毎日、着物を着る生活を送りたい」
前橋の実家近くに転居することも計画している。できることなら和裁を教える部屋を造り、生活の中心に着物を据えたいと考えている。