呉服店 魅力引き出す“本物”を 逸見 早苗さん(51) 高崎市八島町 掲載日:2007/10/25
「手作りの“本物”の良さを知ってほしい」と話す逸見さん
「自分が売った着物を着た客が、周りの人にどのように見られるかまで責任を持つ」
高崎市旭町で「きものサロン逸見」を経営している。客が選んだ反物を京都の業者に送り、完成した着物を販売。接客の際は、客の立場や着て行く場所まで考え、要望を聞きながらその人に合った品物を勧める。
「着ている服からは人間性が分かる。その人の魅力を引き出す着物を提供したい」
毎月初めに京都へ反物の仕入れに出掛ける。近年は京都に行くたび、日本の着物文化の行く末に不安を覚えるという。
「タクシーに乗ったら、運転手さんは以前に呉服問屋に勤めていた人だった。着物の消費が減り、次々と問屋が廃業に追い込まれている。織物の職人も高齢化が進み、10年後、この業界はどうなっているのか」
高崎市出身。共立女子大家政学部を卒業後、5年間パティシエの修業を積んだ。1987年、同市下豊岡町にケーキ店を開業。その後、家業の呉服店で働く夫と結婚した。子供のころ、母親が普段から和服を着ていたことから、着物は身近にあった。結婚を機に夫の仕事を手伝うようになり、閉店させたケーキ店の後に2人で呉服店を新たに開いた。
パティシエの修業時代には度々フランスへ留学した。「海外生活で、より和服の良さに気付くことができた。外国で絹の着物は高い評価を得ている。日本人が着物を着ないのはもったいない」
8年前に夫が病気になって以来、店の仕入れを1人で担当するようになった。夫は2年前に他界したが、「もっと多くの人に着物の良さを知ってもらいたい」と今年9月、立地のよいJR高崎駅近くに現在の店を構えた。
「最近はプリントした着物も出回っている。もちろんそれが悪いわけではないが、手作りの“本物”の良さも知ってほしい」と力を込める。
「着物は確かに不便なところがある。着るための時間もかかるし、体の動きも制限される。でも、せわしい現代にあって、ゆったりした動作や振る舞いに価値があり、それはぜいたくなことなのではないか」