絹人往来

絹人往来

啓発活動 蚕の大切さ展示で 上野 邦彦さん(52) 前橋市苗ケ島町 掲載日:2008/02/07


展示用の蚕の飼育も仕事の1つ。月2回、稚蚕を5齢まで育てる
展示用の蚕の飼育も仕事の1つ。
月2回、稚蚕を5齢まで育てる

 大学で養蚕生物を専攻し、卒業後に就職した埼玉県庁で養蚕行政に携わった。3年前に群馬県蚕糸振興協会に転職し、現在は日本絹の里でチーフディレクターとして企画展の立案などを手掛ける。
 「養蚕農家や製糸場が減り、業界を取り巻く環境の厳しさが増している」。15年ぶりに専門分野とかかわるようになっての率直な感想だ。だが、「上州絹星などオリジナル品種が生み出され、蚕の遺伝子操作など当時は夢のようだった技術開発も進んでいる」と明るい材料が増えたとも感じている。
 埼玉県職員当時は養蚕農家や製糸場関係者が対象となる普及業務を担当したが、今は絹に関心を寄せる一般市民の来館者が相手の啓発業務。「『日本一の養蚕県』と故郷に誇りを持ち、養蚕を残さなければいけないと危機感を抱いている人がたくさんいると分かった。来館者の反応を見て、絹の素晴らしさもあらためて感じることもあった」と、日本絹の里での2年間を振り返る。
 昨夏、特別展「蚕はなぜ桑しか食べないの」を企画立案した。蚕に触れる機会が少ない子供の素朴な疑問に答え、養蚕への関心をさらに高めてもらうのが狙い。「黒島」「レモン」など飼育環境が微妙に異なる原種の飼育や、蚕を引き寄せたり、かみつかせる桑の葉の成分の抽出などで苦労した甲斐があり成功裏に終わった。
 自宅で蚕の飼育に挑戦する親子を対象にした体験教室で指導した際、子供たちが目を輝かせて説明を聞き、熱心に質問する様子に触れ、仕事の重要性を再認識した。
 「蚕は約五千年にわたって人に飼われてきた人類の財産。養蚕農家の減少で蚕に触れる機会が減っている子供に、蚕の大事さを伝えて理解してもらうのが急務になっている」
 最先端の技術を勉強して、展示に反映させるのが当面の目標。「養蚕にかかわってきた経験を生かして、子供やお年寄りに喜んでもらえる分かりやすい展示を心掛けたい。それが、厳しい環境にある業界への一助になると信じている」

(高崎支社 多田素生)