和裁 時代経て着物に“味” 小室 裕子さん(57) 桐生市広沢町 掲載日:2008/08/22
「やわらかさや風合いで正絹に勝る物はない」と仕事を進める小室さん
桐生和服裁縫組合は昨年、桐生市市民文化会館を市民に開放する恒例の「文化会館と遊ぼう」の会場で、初めて和裁を実演した。メンバーはすべて着物姿。長じゅばんの半襟(えり)付け、小物作りに大勢の人が見入った。
「組合は『縫って、着て、着せられる』がモットー。昨年6月から組合長を仰せ付かり、任期はあと1年。今年も着物の魅力を伝えたい」
18歳で和裁の道に。高校を出て、桐生の裁縫塾に5年通った。
「裁断から縫いまで基本をとことん教わった。もう嫌だって思うほど。呉服の商売をしていた父のおかげで、布には困らなかった」
23歳で結婚、独り立ちした。
「最初の仕事のときは何度も布を測った。切ったら元には戻せない。はさみを入れたときの感触は今も覚えている」
「寸法を測り、一人ずつぴったりの品を縫い上げるのが和裁。納品して『着やすかったよ』と言われるのがうれしい」。人づてに評判は広まり、客は自然と増えた。
趣味は人形作り。樹脂で作った本体に、自ら縫った着物をまとわせる。
「長じゅばんを着せ、足袋をはかせる。夏は浴衣も着せる。人も人形も同じ。似合う、似合わないがある。布地は骨董(こっとう)市などで探す。8年ほど前から続けているが、着付けの勉強にもなる。友達に頼まれて人形の着物を縫うこともある」
今年4月から市内の高校で裁縫を教えている。相手は2、3年生。
「エプロン、小物から教え始める。最初はいやいやだった子が、自分が縫った浴衣を着てうれしそうに祭りに出掛ける。和服に興味を持ってもらえればいい」
既製品や海外縫製品があふれている。「手縫いの良い、悪いの違いすら分からない人が増えている気がする」と憂う。
それでも、着物はなくならないと強く信じる。
20歳のとき成人式の晴れ着を縫った。オレンジ色の古典柄。娘も成人式で着てくれた。
二人の孫がいる。
「9月に3人目も生まれる予定。着物は何代も経て本当の味が出る。良い物はいつまでも良い。孫たちもまた、この晴れ着を着てほしいな」